特集 Face Up! 顔パス最新事情 ますます便利&安全になる空港や私たちの生活「国際空港のイノベーション ~「セルフサービス」から「顔認証」へ~」

特集 Face Up! 顔パス最新事情 ますます便利&安全になる空港や私たちの生活「国際空港のイノベーション ~「セルフサービス」から「顔認証」へ~」

はじめに

 1914年1月1日、世界で初めて航空機が有償の旅客を乗せて飛び立ったのは、滑走路ではなく水面からでした(図1)。それから、100余年、民間航空は大きな成長を遂げ、世界の隅々までヒト、もの、経済をつなぎ私たちの暮らしに欠かせない産業として発展を遂げてきました。

図2 世界の主な空港の管理・運営主体

図2 世界の主な空港の管理・運営主体

 新型コロナウイルスのパンデミックの前には、年間40億人が4,000万のフライトを利用していました。2040年までには、旅客は年間80億人、運航便数も8,000万回と倍に達するだろうと予測されていました。一方、空港も航空機の発展とともに、数々の変革・イノベーションを遂げてきました。最初は広い平坦な平原であった離着陸場と小さな建物に搭乗手続きカウンターや待合室がある程度であったものが、航空機の高速化、大型化が進むにつれて、滑走路もより長く、丈夫な舗装も必要になり、より広大な敷地を要するようになりました。さらに多くのお客様が利用するようになるとターミナルもより大きな施設が必要になって、そこにはレストランや店舗も作られるようになりました。
 空港には、航空管制に加えて、出入国管理などの国の機関も必要となり、その後、航空会社も提携やアライアンス、格安航空会社(LCC)の参入と多様化が進み、グランドハンドリングやケータリングも独立した事業体が参入するなど、多くの会社、関係機関がそれぞれの役割を効率的かつ適切に担い、その真価を発揮できる非常に複雑なインフラサービスとして発展してまいりました。
 そのため、空港の運営も滑走路などの離着陸施設は国などの公的機関、ターミナルビルは航空会社が運営するなどしていましたが、空港全体を安全かつ効率的にオペレーションするために、施設の整備だけでなくオペレーションをコーディネートする空港運営会社という存在が求められるようになりました。空港運営会社の経営形態は、国や地域によって公団・公社であるもの、第3セクターのような形態、民間資本の入った株式会社など様々ですが(図2)、世界の先端をゆく空港運営会社においては、航空会社や関係機関と連携した様々なイノベーションを進めています。
 今回は、成田空港において取り組んできた空港手続きに関するイノベーションについて紹介させていただくとともに、これが、新型コロナウイルスからのリスタートに向けても重要な役割を担っていくことが期待されることから、今の新型コロナウイルスの影響や渡航再開に向けた課題や期待について述べていきたいと思います。

新型コロナの影響

図3 開港時の成田空港

図3 開港時の成田空港

 成田国際空港は、1960年代当時、拡張が困難とされた羽田空港に加えて新たな日本の表玄関として整備され、1978年5月20日に開港しました(図3)。

 当時我が国では国際空港は国が直轄で設置管理を行っていましたが、国による直轄事業よりも柔軟な資金調達、人材確保が可能となる公団方式を採用し、新東京国際空港公団(現:成田国際空港株式会社)を設立して上下一体運営(滑走路、ターミナルビルの一体運営)する方式を取り入れ、その後、行政改革のひとつとして民営化が検討され、成田国際空港株式会社となりました。現在は国100%の特殊会社ですが、日本経済の発展に伴い成田空港の利用者数も増加、9.11テロ事件、SARSの流行、リーマンショックといった航空産業が直面した様々な危機を乗り越え、新型コロナウイルスのパンデミック前の2019年には、1日730回の離着陸、約10~12万人のお客様、約5,500トンの貨物を取り扱い、羽田空港と並んで首都圏の拠点空港の役割を担ってまいりました。まさに2020年4,000万人の訪日客、TOKYO 2020 の選手、関係者、観客をお迎えするための準備を進めていたところでございました。さらに、2030年には6,000万人の訪日客をお迎えするという政府目標にも対応するため、首都圏空港100万回の空港容量を確保すべく、成田空港では3本目の滑走路を含めた更なる機能強化に向け、航空法の許可を受けて整備事業に着手したところでした(図4)。

 2020年1月、海外で新型ウイルスによる肺炎の感染拡大が報じられはじめ、徐々に各国が渡航制限の強化を開始、WHOも3月にパンデミックを宣言、当初は湖北省に限定されていた渡航制限も4月には一気に世界73カ国・地域に拡大され、一時的に制限が緩和される動きもあったものの、第4波、第5波と感染の再拡大に伴い、12月には全面的に新規入国が制限されることになりました。また、国内移動についても感染拡大によって、外出自粛から緊急事態宣言の発令など、海外でも実施されていたいわゆるロックダウンに近い状況となりました。
 これに伴い、成田空港の国際線旅客は、約96%消失する状況が本寄稿を執筆している2021年11月まで続いています。一方、国内線は、一時△90%まで落ち込みましたが、その後緊急事態宣言やそれに伴う移動自粛で、乱高下を繰り返し、2021年11月には概ね50%近くまで回復してきました。さらに、人の移動は大きく制限されましたが、いわゆる巣ごもり需要もあり、物流はとどまることはなく、航空貨物はパンデミックが始まった当初は経済活動自体への影響もあり、一時的に△10%程度の減少はあったものの、医療物資、半導体等製造装置や自動車部品などの需要の高まりに加えて、旅客便のキャンセルで貨物スペースが大幅に不足、さらに港湾の混乱などによりコンテナ不足も深刻になった海運貨物の一部が航空に流れてきたこともあり、航空貨物は2021年9月末時点でも対前年34%増の過去最高の好調が続いています(図5)。これは、成田空港周辺に物流の拠点が多く展開していることも背景にあると考えています。

 このような中、急速な旅客需要の落ち込みによって、空港内のテナントには深刻な影響が及んでいます。600以上あったレストラン、物販店・免税店、サービス店舗などは、一部は営業時間を縮小するなどして営業いただいていますが、大部分は臨時休業中、1割程度はすでに撤退を余儀なくされました(図6)。
 また、もともとコロナ前から空港では人材確保が大きな課題となっていましたが、このまま、人材や事業者が流出してしまえば、今後需要が回復してきたときに、一層深刻な人材不足となり、空港の運用を支えるお店や事業者がそもそもいないということになりかねません。
 厳しい経営環境の中、空港会社としては、航空会社やテナントへの支援策として、空港使用料の支払い延期・賃貸料の減免を2020年3月から実施、これまで990億円の支援策を講じてきました。さらに、スタッフの確保については、厚生労働省千葉労働局、千葉県ジョブサポートセンター等の協力で成田ジョブポートを空港内に開設、空港内事業者及び勤務者に対して出向や転籍、助成金の手続きなどに対するサポートを行っています。国の支援制度も最大限に活かしながら空港スタッフの雇用の確保に努めているところであります。

Fast Travel ~エアポート・オペレーターへの変革

 IATAでは、航空運送の発展に伴い、1990年代より空港における手続きのデジタル化、いわゆる Fast Travel(当初はSPT:Simplifying Passenger Travel)と呼ばれるチケットの電子化、空港手続きの自動化、セルフ化の促進、空港の待ち時間短縮、人的リソースの最適化、効率化を促進するプロジェクトを推進していたところです(図7)。海外の主要な空港では空港会社もその導入に積極的な役割を担っていたことから、成田空港でも以前 e‐Airport プロジェクトとして、空港手続きの電子化、自動化の実証実験などを実施し、空港手続きの自動化・効率化に取り組んでおりました。

 その後、2010年代になると、政府が新たな成長戦略の柱に観光戦略を打ち出し、大幅な訪日客の拡大を目指すことになりました。成田空港ではすでにピーク時間帯の混雑は深刻な問題となって顕在化しており、航空会社からは施設の大規模な増強を求められる状況にありました。そこで、成田空港会社としても Fast Travel を一層促進してターミナルオペレーションを効率化し、待ち時間の短縮、施設処理能力の向上を目指すこととしました(図8)。特に、成田空港のターミナル施設は、第1旅客ターミナル(最新の南ウィングが2006年にオープン)、第2旅客ターミナル(1992年オープン)が最新のターミナルデザインのガイドラインと比べて物理的に狭隘であるという問題はあるのですが、それ以外に以下の4つの点について改善することで、Fast Travel の効果を最大化することが、ターミナル処理能力の向上のために重要であることが判明しました。①チェックインロビーの約30%が、待ちスペースやチェックイン以外の目的で利用され有効に活用されていない、②施設の割り当て・運用が最適化されていない、③ Fast Travel のソリューションが適切に活かされていない、④旅客の動線、誘導が適切な方法で管理されていない。

 成田空港では、チェックインカウンターの割り当て、運用を航空会社が行っていましたが、空港と航空会社の間で適切にルールやマニュアル、運用手順などが定められていなかったことから、まずは、チェックインカウンター周りの標準運用手順書を策定して、行列や機材置き場などのスペースの管理方法についてマニュアルを策定しました。また、自動チェックイン機は一部の航空会社が独自のものを配置していましたが、自動チェックイン機の更新に合わせて、航空会社と協議をして、自動チェックイン機はコモンユース(共用化)するとともに、カウンター内に埋め込まれていたものを、ロビーに展開して、搭乗券の発券と手荷物預かりのプロセスを2ステップ化して、それに応じて案内誘導も分かりやすく統一化することにしました(図9)。このカウンターに自動チェックイン機を埋め込むようにした背景には、チェックイン機をロビーに設置すると空港会社が機器のスペース賃料を徴収していたこともあったことから、Fast Travel 促進の観点から、スペース代は今では徴収していません。

 手荷物預けも、人による手続きの場合、一部を除き運航便のスケジュールの2~3時間前にならないとチェックインできないので、お客様はウェブや自動チェックインで搭乗券は持っていても、手荷物を持ってカウンターがオープンするのを待つ必要があり、カウンターがオープンすると一斉にカウンターにお客様が荷物を預けにくるため、混雑の一因になっていました。そこで、手荷物を空港についたらいつでも預けられるように、セルフバッグドロップ(自動手荷物預け機)の導入も進めてきました(図10)。これは、お預かりした手荷物を裏方で受け取るスタッフも必要なことから、海外の主要な空港ではEBS(Early Baggage Storage)と呼ばれる一時的に手荷物を保管して、時間になったら自動的にソーティングに配送するシステムが導入されています。成田空港でもすでに自動手荷物預け機は導入していますが、このEBSの設置についても技術的な検討を進めているところです。

 チェックインの手続きが早くなっても、避けられないのが保安検査:セキュリティチェックです。成田空港ではこの保安検査場の混雑も大きな課題になっていたため、セキュリティチェックの高度化~スマートセキュリティの導入も併せて取り組む必要がありました(図11)。スマートセキュリティのポイントは、検査の準備スペースを大幅に拡張して同時に複数のお客様が準備できるようにすることです。また、検査後も再検査を必要とする人と通過できる人を分けられるようにするほか、ボディスキャナーなど金属探知機に代わる新たな検査機器なども導入しました。さらに、それまで検査員が人手で運んでいたトレーも自動的に戻るようになっています。加えて、コロナ禍にあっては、自動で戻る途中に紫外線を使った自動消毒も導入しました。

 これによって、お客様をできるだけ早く保安検査後のエリアに誘導することができます。空港にとっては、そこでお買い物をしていただくビジネスチャンスも拡大できますし、お客様にはラウンジでくつろいだり、出張の準備をしていただくこともできるようになります。さらに、保安検査後のエリアに早くお客様を誘導することは、ブリュッセルやイスタンブールの空港で起きたような保安検査前のエリアの混雑を標的にしたテロ行為からお客様の安全を確保するために非常に有効な施策のひとつとなります。
 そして最後に、成田空港ではお客様の動線・誘導を適切に実施するために、PFM(Passenger Flow Management)の導入を進めておりました。カメラを使用してリアルタイムに旅客の混雑状況をデータ化して可視化するシステムで、チェックインロビー、保安検査場、入国審査場、税関検査場に導入する予定で、混雑状況をウェブなどでお客様にも提供する予定でした。しかしながらこの混雑状況をカメラ映像で解析する部分に AI技術を取り入れていましたが、新型コロナの影響で、お客様がいなくなってしまったことから、AIが学習できず、現在PFMの機能はまだ稼働できていない状況となっております。需要が回復してきましたら、いち早くAIに学習させてサービスをスタートさせたいと考えております。
 空港会社としては、この Fast Travel の促進によって航空会社ほか関係者との一層の連携・協力体制を構築して、お客様に成田空港を安全で快適に利用いただけるよう、更なるイノベーションの促進を模索しておりました。

Face Express 導入~顔パスで新たな旅のスタイル

 Fast Travel の取り組みについて紹介してきましたが、手続きの自動化・セルフ化を進める中で、生体認証技術を活用したさらに進化した手続きとして、Single Token または One ID と呼ばれる搭乗情報と本人の顔情報を紐づけして、空港でチェックポイントごとに何回も行われる本人確認を顔認証だけで通過できるサービスが世界の主要空港で導入され始めていました。さらにそれらの多くが日本の認証技術を活用していたことから、これは、ぜひ日本の空港でも取り入れ、TOKYO 2020 の時には日本の生体認証技術を世界にアピールする絶好の機会となることから、成田空港と羽田空港でオリパラをターゲットに最先端の顔認証技術による搭乗手続きの導入に向けて国のサポートもいただきながらプロジェクトを進めることになりました。顔認証による搭乗手続きは、まったく新しい搭乗手続きになることから、“Face Express” というサービス名とロゴを広く普及していきたいと考えています(図12)。

図13 個人情報の取り扱いについて

図13 個人情報の取り扱いについて

 Fast Travel のセルフサービスは、お客様と空港スタッフの接触の削減、混雑の軽減につながることから、コロナ禍における国際渡航再開においても効率化だけでなく非接触手続きにも大きく寄与するものですが、各チェックポイントでどうしてもパスポートによる本人確認が必要になります。この “Face Express” による本人確認ができれば、まさに「顔パス」で通過できることから、さらに接触による感染リスクを低減することができます。お客様は空港の最初のチェックポイント(例:自動チェックイン機)において、搭乗情報と顔情報を紐づけます。その際に、パスポートの写真情報とカメラの前にいる本人との認証も行います。その後は、手荷物預け、保安検査場入り口、搭乗ゲートにおいて “顔パス” で本人確認ができます。
 導入にあたって、最大のチャレンジは新型コロナウイルスの影響で海外の技術者の渡航ができなくなり、現場での設置・調整に支障が生じたことでしたが、ベンダーであるNEC、航空会社ほか関係者の多大なるご努力の結果、TOKYO 2020 オリパラ大会自体も1年延期になったこともあり、大会直前にはなりましたが、7月19日から全日本空輸、日本航空の国際線で運用が正式にスタートしました。
 もう一つのチャレンジは、顔情報やパスポート、搭乗情報といった個人情報の取り扱いには特に厳格な管理が求められることから、国土交通省航空局では、2019年10月より、マルチステークホルダープロセスの手法を取り入れ、有識者や関係機関、消費者団体などで構成される「One ID 導入に向けた個人データの取扱検討会」を設置して議論を進め、2020年3月に個人データの取扱いにおいて配慮すべき事項について取りまとめを行い、ガイドブックとして公表しました(図13)。

図14 Face Express の更なる活用案

図14 Face Express の更なる活用案

 この中で、Face Express 運用の留意事項として、データの利用目的を搭乗手続きに限定すること、顔認証は希望者のみとすること、データの消去と定期的な監査を実施すること、が定められました。加えてサービスの内容の十分な周知、データの流れなどの分かり易い解説、苦情・相談などへの適切な対応も盛り込まれました。空港内にサービスや個人データの取扱いに関する案内看板やリーフレットを配置するとともに、インターネット/SNSなどを活用した周知、告知も実施することとなりました。
 TOKYO 2020 は残念ながら無観客開催となり、多くのお客様に最先端の認証技術を体験いただくことはできませんでしたが、ご利用いただいたお客様には、認証のスピードの速さや正確さを実感いただき、渡航が再開されたときにはぜひ使いたいと好評をいただいております。
 この Face Express ですが、今後、利用できる航空会社やエリアも拡大していく予定です。また、顔認証技術は新しい旅のスタイルやサービスをさらに拡大していくポテンシャルをもっていると考えています。
 また、コロナ禍からの渡航再開に向けては、ワクチンパスポートや検査証明のデジタル化も進められており、顔認証による本人認証と Face Express サービスの連携によって、コロナ禍における渡航再開において、非接触手続きの促進にもつながるものと期待しております。さらに、顔認証技術は個人情報保護の観点から、他のサービスへの展開には慎重な対応も必要なものの、エアラインラウンジへの入退場や免税店でのショッピングなど、新しい旅行のスタイルにもつながる技術としての期待も大きいものです。
 また、法務省の出入国管理顔認証ゲートや財務省の税関申告ゲートではすでに顔認証技術を導入しており、出国から入国までシームレスに顔認証で通過できる環境基盤は整っているので、将来的には関係機関とも連携の可能性を模索していきたいと考えています。この顔認証を含む生体認証技術はまだまだ発展して、より安全で便利な空の旅を支える重要なテクノロジーとなっていくものと考えております(図14

国際渡航再開に向けて

図15 IATA の需要予測

図15 IATA の需要予測

 IATAの予測では、世界の航空需要がコロナ前の水準に戻るのは、2023年と予測されていますが、比較的回復が早い国内需要や域内需要の大きいEUや米国と比べると、アジア太平洋地域は国際需要への依存が大きく各国の渡航制限の緩和のペースに大きな影響を受けることから、回復のペースには地域や国による差が生じると予測されています(図15)。

図16 各種デジタル証明アプリ

図16 各種デジタル証明アプリ

 この国際渡航についても、各国でワクチンパスポートや検査証明書などを活用した渡航再開の動きがヨーロッパや北米、アジア・太平洋地域においても徐々に始まっています。日本においても、海外渡航者向けのPCR検査証明書やワクチン接種証明書を発行する体制を整え、さらにワクチン・検査パッケージによるイベントや飲食店、スポーツ、コンサートなども含めた経済活動の本格的な再開に向けた動きが始まっているところです。
 しかしながら接種証明や検査証明に加え、渡航要件の確認、滞在中の行動履歴、入国前の行動履歴の確認など多くの確認が空港において行われることになり、このような中、IATA、ACIでは、空港における手続き時間への影響を調査したところ、ペーパーベースの確認方法ではコロナ前の手続き時間の3~5倍に処理時間が伸びていることが判明しました。現状の旅客数水準であれば、なんとか2~3時間程度の手続き時間で通過できますが、需要が19年レベルまで戻ってくると、手続き時間は8時間程度にまで拡大することが懸念されています。
 これらのプロセスのデジタル化が求められるところですが、すでに多くの検査証明のデジタルアプリが提供され、データの連携や読み取り確認のプロセスに関して、各国政府が国際間で相互に認証できる体制を構築することが不可欠です(図16)。

図17 国際渡航再開に向けた取り組みイメージ

図17 国際渡航再開に向けた取り組みイメージ

 各国の政府機関では、入国時に有効とするアプリケーションを指定して、国境を越えた渡航の再開を進めていますが、国ごとに異なる渡航要件の確認や、各種健康証明書をデジタル化するだけでは、空港で何回も確認作業が生じることから手続きの処理能力の向上は期待できません。加えて、ICAOやWHOは各国政府に対して、国際渡航再開に向けてはワクチン接種が完了した渡航者について、リスク評価に基づき到着時の検査や隔離措置からの除外を検討することを推奨しています。IATAやACIは、各国政府が連携して渡航再開にかかるエコシステムを構築することが、コロナ禍において経済活動を再開させるために重要なことで、活動の制限や国境の閉鎖は有効な対策ではないと訴えています。
 今後、本格的な渡航再開に向けては、国際機関、各国政府機関、出入国管理機関、航空会社、空港などが連携して安全で効率的な渡航手続きの手法を確立していくための連携が不可欠です(図17)。我が国においても、感染状況や渡航による感染リスクの評価を踏まえつつ、渡航再開に向けたワクチン証明のデジタル発行や検査証明による渡航制限や入国要件の緩和が進められ、我が国の経済活動の本格的な再始動につなげることが重要だと感じております。空港においても関係者と連携して必要なイノベーションを促進して、特に空港における様々な追加の手続きについては、国際間の調和のとれたデジタル化への対応や効率的な手続きの確立によって、1日も早い安全で円滑な国際渡航の本格的な再開に貢献したいと考えております。

執筆

宮本 秀晴

*本記事は『航空と文化』(No.124)
2022年新春号からの転載です。

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