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歴史に見る模型飛行機の顔さまざま
(12) 模型飛行機の美学
 
大村 和敏
2011.06.30
   
   

         
      図1
模型の美
       
                 模型飛行機は美しいか?

       
1. はじめに

 
 模型飛行機は美しく見えます。例外もありますが、一般に、見て快い姿をしています。拡張すれば、実機も同様です。飛行機の写真集やプラモデルが売れるのも、見て快い印象を与えるからです。いわゆる美術品・芸術品も美しい故に価値があるわけですが、それと飛行機の美しさには違った点があります。

 芸術品は、作者が美を意識して追求・努力した結果、美しく作られたものです。然るに、飛行機・模型飛行機は一般に、作る段階では「美しさ」を指向していません。ひたすら、空力効率を追求し、安定性を考え、丈夫で軽い構造を求め、生産時の工数を減らし、運用時の取り扱いが楽になるようにして、しかも安く作る努力をします。競技機の場合は、規則による追加的な要求に合わせなければなりません。少なくとも、芸術品のように全面的に美しさだけを追求している余裕は無く、なりふり構わず機能を追及しないと満足に飛んでくれません。

 つまり、飛行機・模型飛行機は、設計者が殊更に美を追求せず、専ら機能的に最善を求めた結果、美しくなってしまうわけです。身を削って美を追求している美術家の立場から見れば、このような無作為による美の誕生は、腹の立つ存在だと思います。

          図2 のすり
         

 立場を変えて、外形を把握する能力に優れている美術家が、競技会を観戦し、あるいはザイク年鑑のような図面集を見て、模型飛行機の優れた形を感じ取り、そういう機体を作って優秀な性能を発揮させたとすれば、筆者はひどく頭にくると思います。

 モデラーにしても、航空力学を勉強し、理論を組み上げ、データを集め、計算をして造形しているわけですから、美術家と同じく時間と手間をかけ、身を削っているわけで、それを省略して美的感覚だけで高性能機を作られたら、心中穏やかではありません。

 モデラーや飛行機設計者の行なっている、無作為の、副産物的な美の作成に付いて、美学・美術の専門家各位はどの様に考えているか興味があったので、参考書を当たってはみたのですが、適当なものが見当たりません。いわゆるインダストリアル・デザインは、自動車や家電品など機能する物品の造形ですから、飛行機の外形の造形と同じように考えられやすいのですが、実際は違うものです。

 後者は、前述のように機能を最適化するように造形され、それが最良の形であり美的感覚によって手直しされません。インダストリアル・デザインは、機能最適化の経過や論理を知らないシロウトが、魅力を感じて買いたくなるような形を創ることで、機能部分はその形に収まるように妥協させられます。

 飛行機でいえば、自家用軽飛行機は商品ですから、インダストリアル・デザイン的な要素が含まれます。それでも、自動車や家電品に比べると機能による造形の割合が多く、美的に手直しされる部分は少ないと言えます。

 軍用機となれば、その性能が一国の防衛能力を決めるわけですから、美的な要素に関わる余裕は無く、機能的に最適な形がそのまま完成形になるはずです。飛行機だけではなく、兵器・武器は一般に機能一点張りになるはずで、それでいて一種の美しさを持っています。

 模型飛行機の美しさも、基本的には軍用機、軍艦、機関車(SL)、実用民具などと同様に、機能をぎりぎりまで追及された、機能する物品の美しさと同質です。但し、BOM、さらには自分で設計した場合のことで(歴史的にはこのように作られるのが基本でした)、模型メーカーが商品として開発・市販する場合は、前述の乗用自動車と同様に消費者の購買欲をそそるような(美的)デザインとなるでしょう。

 ここで、以下の議論で使う言葉の定義をしておきます。「デザイン」は、機能に裏付けられた造形で、性能計算や空力的考察、構造的・強度的・生産的な考察などに基づいたものです。「スタイル」は、機能に裏付けられない造形で、主として美的な追求から造形されたものです。

 実のところ上記の使い分けは世間一般に峻別されているわけではありません。次節で引用する佐貫亦男氏の文献は「飛行機のスタイリング」と言うタイトルですが、上記の定義に従えば飛行機のデザイン論です。しかしながら、以降の議論を進める上では区別したほうが解りやすいので、筆者は上記のように使い分けます。


2.飛行機・模型飛行機の美醜のモノサシ

 「性能の良い飛行機は美しい。但し、その逆は成立しない」と言う言葉があります。飛行機の設計者、あるいは評論家、さらにはシロウトのファンまで多くの人が言っていますから、誰が言い出したことか解りませんが、これは真実のようです。

 飛行機設計者のきわめて重要な「虎の巻」に、「飛行機設計論」(山名正夫)がありますが、序章「創造としての設計」にリカード(イギリスの高速内燃エンジン研究者)の「美と効率とは同義である」と言う言葉も引用されています。山名氏は同時に、飛行機設計には美的感覚が不可欠であるとも記していますが、この点と論理的な設計との関連に付いては後で詳しく採り上げたいと思います。

 「美」とは、国語辞典的にいえば、「見て快い姿」と言うことのようです。拡張すれば、音、触覚、味覚など、視覚以外の五感に快い情報をもたらす対象と言うことになるでしょう。とりあえずここでは、対象を視覚に限っておきます。

 美学書の類に、飛行機のような純粋に機能を追及した物品の美しさを論じたものが見当たらないので、飛行機屋側の美学論を探し、「飛行機のスタイリング」(佐貫亦男)に至りました。同氏の「ヒコ-キの心」などの多数の飛行機エッセイは定評があるベストセラーで、氏の経歴から見てもその分析には説得力があります。扱われている機数は明示されていませんが、250余ページの本で1ページに1機以上取り上げていますから、ライト機以来300機程度になります。

 読み直してみると、300機ほどの飛行機の美醜は個別に主観的に判定され、なぜ美しいかを個々に分析しています。理由の多くは機能性に帰着していますから、「スタイル」よりも「デザイン」に含まれる部分になりますが、それだけともいえません。

 同氏の主観的な美醜判定ではありますが、ほとんどの場合が筆者の感覚と一致します。要するに、飛行機を見て美しいと感じる感覚は個人差が少なく、多くの人々に共通するもののようです。

 但し、佐貫氏の美醜判別は当該機の個別的な理由であって、美の一般的な通則は書かれていません。そして、そしてその序列は「クラス・チャンピオン」の選出であって、総合優勝者は選出されていません。大型機(爆撃機・輸送機)と小型機(戦闘機・競技機・自家用機)の美しさは別物であり、第1次大戦と第2次大戦のように時代が変わると、飛行機の美しさの標準も変わるからです。

 前述のように、飛行機の美しさは機能と密接に結びついています。用途が変われば必要な機能も変わり、時代が変われば機能の限界も変わります。だから、設計者や長年の航空ファンなど、機能面まで読み取る能力のある層は、機能に応じて美醜を判断しますから、「飛行機全体の中で最も美しい機体」を選び、理由付けることは困難なのです。
                         
      図3 スーパーマリン・スピットファイア戦闘機(英)
     
           「第2次大戦で最も美しい戦闘機」と言われた

3. 模型飛行機の美しさ

 模型飛行機は実機以上の種類があり、美しさのクラス・チャンピオンも大勢になります。たとえば、室内機と野外機の標準的な形や美しさは、大幅に異なります。同様に、フリーフライト機・RC機・CL機にも、大きな相違があります。

 しかしながら、モデラーとしてある程度の経験を積めば、専門外の区分でもそれなりの美醜の判別がつきます。骨董屋の二代目教育法として、「良い本物だけを見せる」と言うことが言われています。そうすると、悪い偽物を見たときに違和感が生じ、理屈抜きで良否の判断がつくそうです。

 経験の浅いモデラーが飛行場に行って、様ざまな玉石混合の模型機を多数見たとき、地上の静止状態では表面的な美醜はともかく、その機体の良否の判断はつかないかもしれません。しかしながら、離陸して飛行すれば、機能的に優れているかどうか判別がつきます。

 1機の飛行だけを見たときは比較の対象がありませんから、良否の判別は困難ですが、競技会などでは複数機の飛行を見ることが出来て、順位もつけられます。1日だけでははっきりしないかもしれませんが、回数を重ねると見所が解り、地上の静止状態を見ただけで当該機体のレベルがわかるようになります。
自分が競技に参加する立場だと、ライバルの水準を事前に値踏みしておくのが有利です。だから、上記の良否判定は勝負につながり、より真剣なものになるのです。

 模型飛行機の競技場は一般に僻地にあるので、そこまで観察に行くためには長時間のドライブなどの努力を要します。だから、特に熱心な模型ファンで無い限り、模型飛行機の美醜論は雑誌に掲載された写真・図面などの2次的な映像がベースになります。

 これらは、記者・撮影者などの判断のフィルターを通した映像などです。つまり、良いもの、美しいもの、ニュース性のある特異なものなどが、選ばれて掲載されていると考えられます。だから、玉石混合ではなく、水準以上のものが集められているわけです。ザイク年鑑や、様ざまな団体の年次レポートに収録された機体は、上記をさらに選別したわけですから、優秀機の濃度は向上します。

 これらの文献を漁ることによって、飛行場現場に通うよりも手っ取り早く、「模型飛行機の良否・美醜の鑑識眼」を養うことも可能ではありますが、二次資料であるために記者・撮影者など選者の好みが入っていて、それに引っ張られて偏る危険はあります。

 ある機体を見たとき、第一印象として感じる美しさは美術品の場合と同様な「スタイル」(前述の定義を参照)であって、機能とは独立しています。しかしながら、ここで合格ならば一次試験は通過したと言え、機能的に優秀な設計が多く含まれます。前節で述べたように、様ざまな機体を観察し、写真や図面を見ることによってある程度の鑑識眼は体得できますから、一次試験の結果はそれなりの重みを持っています。

 二次試験は、部分的な外形の機能との整合性です。佐貫氏のような専門家によれば、大部分の外形の機能的な根拠が理論的に解明され、客観的に評価されるようです。模型飛行機の場合も、自分で作り、飛行や取り扱いの現場に飛行場で現実に接し、知識と経験を積むと、分析的な見方が出来るようになって、「美しさ」の理論的な裏づけが可能です。物

      図4 模型機の、機種それぞれの美しさ
       

       
                
 
4. 飛行機・模型飛行機の機能設計とスタイル

 ここまでは、出来上がった機体を見て美しさを感じとり、その分析や裏づけを行なうことに付いて考えてきました。その前の段階として、その飛行機を創りだすために設計するときには、「美しさ」がどの様に関与しているか、飛行機設計の参考書を当たってみました。

 前出の「飛行機設計論」(山名正夫)では、はじめに「設計」を「概念を形に表していく仕事」と定義しています。飛行機を作るに当たって、論理的な積み上げや数値計算によって、その「概念」が作られるわけですが、どこかの段階で「形」(全体・部分・部品などの絵、図面や模型など)にしなければなりません。

 そのとき「概念」として数値・仕様などで決まっているところはほんの一部分であって、残りは「絵心」の造形で補完しなければなりません。この段階で、設計者の「美的なセンス」が発揮されます。但し、論理部分とのバランスが重要で、発揮されすぎると「性能の良い飛行機は美しい。但し、その逆は成立しない」(2節)の後半部分になってしまいます。他方、論理的な数値に基づいて図面を書いてみて、審美眼に引っかかる場合は、再検討してみると論理過程に「何か」がある場合が多いようです。

 いずれにしても、飛行機設計において審美眼、言い換えれば「良い、本物を沢山見て、頭に刷り込んでおく」ことは重要です。「良い、本物」は飛行機に限らず、ヴィーナスもモナリザも、F1レーサーも、伝統民具も、全て設計者のコヤシになると言われます。

 ちなみに前掲書によれば、世阿弥の花伝書まで引用されています。また、山名氏が航空工学の講座で学生に石膏像のデッサンをやらせたところ「ヴィーナスをブルドッグのように描くものが少なくなかった。高校で図画を履修したものは30余名中1名だけで、多くは絵や物の形にほとんど無関心のようであった」と記されています。要するに、設計者は教養として美的センスを必要とするけれども、それが表に出すぎては機能的な設計を阻害するわけで、バランスが重要だということのようです。

      図5ヴィーナス像とブルドッグ
  

 たとえば、F1B級(国際級のフリーフライトのゴム動力機)の主翼を設計するとき、図面集や競技記録から優秀機のデータを探してきて、翼面積や翼幅(スパン)の世間相場を調べます。それから、航空力学や構造・強度の理屈によって、それを増減したときにどの様な影響が生じるかを検討します。

 空力効率が向上する、重くなる、強度が低下する、工数が増える・・・・などの利害得失を検討して設計者なりの決断を下し、「翼面積XX平方dm、スパンYY㎜」と定めます。ここまでが論理的な数値設計であり、その段階で描ける翼の絵はノッペラボウの長方形です。

 そこで図面集や競技会で見た、様ざまな主翼平面形の記憶を呼び出します。
同じ「翼面積XX平方dm、スパンYY㎜」の翼であっても、現実には様ざまな平面形があります。理論的には楕円平面が最良ですが、工作の手間はかかります。

 テーパー翼にすれば強度的には楽になりますが、どこからどれ位絞ればよいか、様ざまな方法があります。翼端の処理も、直角に切り落とすもの、丸めるもの、ウイングレットなどを追加するもの・・・・など様ざまな手があります。

 これらは、理論的・定量的に評価できるものもありますが、出発点は設計者の「蓄積された絵心」です。つまり、論理計算の数値と、審美眼の共同作業によって、現実の翼面の平面形が決められていくことになるのです。
                  
5. 模型飛行機の色彩 

 外観の美しさの重要な部分に色彩があり、これは空気の流れとは関係が無いのですが、競技機の場合は機能的な制約があります。紙などに塗料を塗っていた時代は、顔料などを含んだ色彩塗料の重さが制約条件になりました。色彩塗装は透明な塗装(クリア)よりも重くなります。顔料の多くは金属の酸化物で比重が異なり、その色が出る塗り重ね回数も違い、塗色により重量差・性能差が出ます。

 軽く仕上げるために紙とバルサをクリア塗装すると、白と薄いベージュ色になります。紙やバルサが日光にさらされて焼けてくると、全体が枯れ草色になります。目立たない色であるのに加えて、秋冬の野原や農閑期の田んぼと同色で、着陸した機体は非常に見つけにくくなります。だから、競技用のフリーフライト機に色彩塗装を行う目的は、美的なデザインのためよりも、計時や回収のときの識別(見つけやすさ)を優先したものになります。

 戦中の模型機の色彩デザインは、赤色の紙だけを使った単調なものでした。当時は戦時であり、資材の種類は限られ、美的要素の追求には逆風でした。
着陸した機体を探す場合、目立つ色彩は目立つ場所に施すのが道理で、翼端や尾部がポイントになります。地上の草や樹木に突っ込んだとき、もぐりこまないで突き出す可能性が一番高い部分なのです。

 旋回飛行では、左右が非対称に着色されていると姿勢の確認が容易です。旋回外側の翼端は草や木から突き出す可能性が大きいので、この部分だけ着色するのも合理的です。

 ところが、戦後になって外国の同級機を見ると、機体全体が各色の紙で張り分けられ、派手なデザインになっていました。この差は、日本人の「余白の美の尊重」だけではなく、翼紙の調達状況も影響していたようです。翼紙は、外国では模型屋で色つきのものを購入しますが、日本では紙屋で上質な無着色の汎用和紙が容易に多種買えるため、それが主力になったわけです。

 60年代になると、エンジンつきの操縦型模型機(RC、CL)が多数派になり、これらでは重量に余裕が生じたので、再び塗装で色彩を加えるようになりました。

 80年代になると、デザイン的には変わりませんが、フィルム張りや蛍光塗料のような新技術が、被覆・塗装の部分に登場してきました。蛍光塗料は「出藍の誉れ」ではありませんがそれまで目立つと言われた色よりも目立ち、遠くから見つけやすく、識別も楽です。

 市販の文字・数字・キャラクターなどのデカールもあり、単色塗装のアクセントに使えます。パソコンのプリンタを使って、薄い翼張り用和紙に模様や文字などを印刷することも行なわれています。

 このように色彩デザインの自由度は拡大し、模型飛行機の美化に貢献してはいるのですが、前述した識別のためのニーズは無くならず、模型飛行機の色彩デザインから実用性の制約はなくなりません。


6. 空気が飛行機・模型飛行機を美しくした?

  図6 翼端のうず
 
         空気の流れを煙によって見えるようにした。
         左下の飛行機の右翼端から発生した渦を後ろから撮影
   
 突き詰めると、飛行機は機体の表面に接して流れる空気の速さ・向きをコントロールして、意図した圧力を作り出し、それによって空中を運動する仕掛けです。だから外形は、各部の圧力、言い換えれば気流の向きや速度を、その場所に都合の良い状態になるように造形されます。

 空気は目に見えないので、どの様に流れているのかわからず、草創期ではどの様に流れれば都合が良いのかもわからなかったわけです。だから、それに対処するためにどの様な外形にするべきかもわからなかったと思います。空気の流れを解明するために、風洞、煙風洞、旋回腕などが考案されました。また、実物の飛行機の要所に毛糸などを貼り付け、そのなびき方で局所の気流の流れを探ることも行なわれました。

 同じ目的で、機首側で油をくすぶらせて油煙を流すことも行なわれました。油煙のよごれの筋は機体の表面に着きますから、流れの向きがわかるわけです。副作用として、開放座席のパイロットも汚い煙に曝され、鼻の穴や目の周りを真っ黒にしたそうです。

このような先人の努力によって、飛行機の周りの気流の状態は少しずつわかってきましたから、機体の外形はそれに対応して変化しました。強度を保つための支柱や張り線は、空中を移動するときには無駄になるので、取り外されました。機体の外形は、気流に逆らわないように、いわゆる「流線型」になりました。「流線」と言うのは、気流が邪魔されずに流れていく方向の「線」です。飛行機の機体が効率よく意図した圧力を発生させるためには、流線に逆らわないことが重要でした。

 飛行機の中で流線とその利用を一番はっきり示している部分が、翼の断面、「翼型」です。翼は飛行の為の揚力を発生する最重要な部分であり、その代償として機体の抗力も70%くらいを発生します。翼の表面にどの様に気流を流し、どの様な圧力を発生させるかと言うことは、飛行の能力の死命を制するところでした。だから昔から翼型と発生する圧力(揚力と抗力)に付いては、沢山の人たちが深く研究し、データも多く発表されています。(第7回参照)
 様ざまな翼型が、研究所や飛行機設計者によって考案され、発表されています。翼型は用途によって適・不適がありますが、それぞれに美しい曲線をしています。空気や水のような流体の中に適応した形を研究するために、魚の流れ方向(頭~尾)の断面形を調べたデータがあります。この形も美しかったのですが、同時に高性能翼型ときわめて類似していました。

     図7 ライト機から1960年頃までの代表的な翼型(翼の断面形)の変遷
          
   高速化によって形は変化しているが、いずれも気流に馴染むべく設計された。
    曲線は座標化されていて、正確に描くことが出来る。


 逃げ足の速い魚は、それだけ捕食されにくく、生き残って遺伝子を残す可能性が大きくなります。だから、長年のうちに形が悪くて抵抗の多い個体は淘汰され、形が良くて抵抗の少ないものだけになったわけです。

 従って、人智を尽くして効率の良い翼型を求めた結果と一致するのは当然で、ともに「効率的な流線、良い形、美しい曲線」に至ったわけです。翼以外の胴体や付属部分も、基本的には翼型の曲線と同様に効率的な流線に倣えば、抗力が小さく、飛行性能は良くなります。

 翼型の曲線は、気流になじみやすい訳ですから、機体を構成する美しく効率の良い曲線を創るときに利用できます。翼型集などを眺めて頭に刷り込んでおけば、機体を造形するときに役に立ちます。

 機体の大略の構図は、ザイク年鑑のような優秀機の設計図・三面図集を眺めて、お気に入りの形を探せば、それが刷り込まれ、アイデアのコヤシになります。また、翼の平面形、主・尾翼の間隔、機首の長さなどは、性能・安定・重心位置などの計算で制約されます。だから、極端なプロポーションは成立せず、除去されます。

     図8 胴体
     
    抗力が少ない形の胴体(円断面の側面形)。翼型と同様に座標化されていて、
    図の%数値は前から測った一番太い場所の位置。

 飛行機の設計、つまり形を造形するにあたっては、概略の形に力学的な枠があり、気流になじみやすい曲線もシステム的に見本がそろっているわけです。
美的な才能に恵まれた人ならば、これらは不要で邪魔かもしれませんが、普通の人、普通のモデラーにとっては、ある程度のガイドラインがあったほうが楽であるようです。

 加えて、これらのガイドラインは、不特定多数の美的感覚による評判のように不確かなものではなく、飛行実績や風洞実験のような科学的根拠によって選別され、システマチックに記録・保存され、設計者が必要に応じて利用できるように整理されています。

 飛行機・模型飛行機設計者は,画家・彫刻家など芸術・美術の専門家とは違う活動分野ですから、芸術家と同じ手法で枠組みやデータなしで飛行機を設計したら、それほど美しくはならないと思います。

 先人の造形結果が、再現可能と言う意味で科学的に蓄積され、必要に応じて利用できるシステムに整理されているから、普通の人・普通のモデラーが美の追求に身を削らないでも、そこそこ美しい模型飛行機が作れるのです。

 加えて、モデラーの中にも美的感覚の天才は居るようで、きわめて美しい芸術的な機体も出現することがあります。そして、その設計は科学的なデータシステムに組み込まれ、以後のモデラーに利用されますから、模型飛行機の美しさの水準は常に向上することになります。
      

 

大村 和敏 (おおむら かずとし)
日本模型航空連盟

編集人より
大村和敏氏は元模型航空競技・ウェークフィールド級日本選手権者であり、模型航空専門誌にも寄稿されています。

         
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