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木製の飛行機を造り飛んでいます!(2)
 -フィッシャーFP-303自作マイクロライト航空機-
 
石原 能行
 2011.08.15
   
(1)はこちら    
   

荷重試験

 マニュアルにこの機体の強度はDesign Load Factor:+4.6G, -2.3G(控えめな数字)と表示されていますが木製の(私の機体)強度は自分の作業品質に左右されます。超軽量動力機としての運用範囲(曲技・スピン禁止、Max 60度の旋回)に耐えることを確認すれば充分です。(大量生産をするジェット旅客機の最大終局加重試験のように、何Gで飛行機が壊れるのかを見るためではありません。面白がって壊してしまえば、ここまで5年半の努力が台無し)荷重試験は機体製作の山場と言えます!
   
     
荷重試験
最大揚力係数となる迎角に機体を固定(但し上下逆)して、空力中心に荷重を載せて行く。なぜか最初の一つの砂袋(20 kg/袋)を載せる時が一番怖いのです!
2006年3月
凡そ4Gの荷重試験パス

   
   

羽布張り

 現代の羽布(はふ)素材はPolyester繊維です。規定の温度でアイロンを掛けると繊維が縮み簡単にピンと張れます。そうは言うものの私にとってはラジコン機のフィルム張りをやった事が唯一の経験でした。アメリカではEAAによって色々な講習会が開かれていて「Covering and Finish/羽布張りと仕上げ」について教えてくれるコースもあるようですが、習いに行く暇もないので専らメーカー:POLYFIBERのマニュアルを隅から隅まで読み、マニュアルに従ってラダーや垂直尾翼などの小さい部品から練習を重ねつつ何とか仕上がりました。
   
     
尾翼の羽布張り、アイロンを掛けたるみをなくしている所。 


羽布張りした主翼
現代の羽布張りはPolyester繊維です。アイロンを規定温度で掛けると繊維が縮むので簡単にシワも無く綺麗に張れます。
羽布張り後、ニスを塗りにより羽布の密着を確実にすると同時に繊維(Polyester)の目止めをします。ニスはPOLYFIBER社のPoly-Brushという製品)。
この後、Ploy Sprayというアルミの微粉が入った下塗りをします。
アルミの塗装膜はPolyesterを紫外線から保護します。
最後にPolycolor、上塗りをします。


羽布張り、塗装完成の胴体を裏返して主脚を取り付けている。


羽布張り、塗装完成の胴体


塗装完了
胴体上部構造は、内部の点検整備を容易にする為取り外し可能。
主翼も脱着可能。
2007年5月


エンジン搭載
木製のエンジンマウントにRotax 277を搭載。
2008年2月


初めてのタキシング 2008年9月
機体をロープで固定してのエンジン試運転を充分に行った後、歩くような速さのタキシング、ハイスピードタキシングを繰り返して、Shake Down-(機体を震わせて具合の悪い箇所を振るい落とします)。エンジンの振動、タキシングによる機体の振動を調べて、弱い部分などが無いかを確認し必要があれば修正します。

   
   

操縦系統図

エレベーター・コントロール

   
     


   
   

エルロン・コントロール

 
   


   
   

 ラダー&ステアリング・コントロール

   
     

   
   
FP-303 操縦席
装備された計器は、左から高度計、速度計、
エンジン回転計、温度計(排気温度 & シリンダーヘッド温度)
超軽量動力機では、高度計と速度計の装備が必須です。


初飛行、2009年7月
高度1m程度のジャンプ飛行を繰返し行う事で機体の構造、強度テストや操縦性の確認ができます。又パイロット自身がこの飛行機に慣れる為の重要な過程です。


飛翔

   
   

FP-303の飛行

 超軽量動力機の操縦はドリフターという2人乗りの機体で指導員に付いてもらって覚え技量認定の許可(法28条第3項)を取得しました。飛行場所(法79条ただし書き)は私の格納庫のある守谷フライングオーナーズクラブ場外離着陸場です。
 そして自作の機体FP-303は、2009年3月に航空法第11条第1項ただし書きを取得しました。
 自分の機体で尾輪を上げてのハイスピード・タキシーは、地上にいても機体が飛行姿勢になり小さなキャノピーを通して見える滑走路の見え方が変わって結構リアルで楽しいものです。
 通常の迎え風や横風、追い風の中ハイスピード・タキシーの練習を何度も繰り返してゆくと、エレベーターの反応、ラダーの効き具合が判り、スロットルレバーを操作する手の感覚なども慣れてくるので機体のテストを兼ねた初飛行に至るまでの良い訓練になりました。
 横風も4~5mになると、尾輪を上げたとたんに機首が風上方向を向いて修正が困難になります。
 こんな追い風でタキシーのスピードを上げると、滑走距離がドンドン伸びてすぐ滑走路エンドです。三舵のうちエルロンの効き具合を感じられるのは、ジャンプ飛行になってからです。

 そして2009年7月、航空局から法28条3項の許可を得て初めてのジャンプ飛行、すでに何回も飛行機の重量がタイヤから主翼に移ってゆく感覚をハイスピード・タキシーで体得しているので何の難しさもありません。30 mphくらいで浮き上がります。1 m位の高度からエンジンを絞りながら着陸します。着陸は2点でも3点でも問題なく、ジャンプ飛行の場合は主脚からの2点着陸が簡単です。この機体の「フライトマニュアル」にも書かれていますが、横風の時は速めの機速をつけて2点着陸が推奨された方式です。

 初飛行!25馬力の小さな機体は40 mph~45 mphでゆっくり上昇して行きます。とても素直でおとなしい操縦性の機体で、着陸も問題はありません。
 (小さな飛行機なので風速が7~8m/secを限度にして、それ以上の風では特に突風に遭遇する可能性も出てくるので飛ばない事にしています)

失速試験

 スロットルを絞り高度を維持するように水平飛行を続けます、機速が下がり高度が下がるのでエレベーターをUP。28 mphを下回ったあたりで、機首は落ちずにそのまま機体が沈んでいきます。左右どちらかの翼を落とそうとする傾向が出るので、水平(Wing Level)を維持する為ラダーで修正しなければなりません。失速からの回復は、そのままPower Upまたは、機首下げです。
 このFP-303のようにゆっくり飛ぶ超軽量動力機では「風下への飛行」が要注意、特に離陸後や着陸進入のパターンを飛行する場合、律儀にパターンを直角、直角に旋回しようとすると風下への旋回が危険となる場合があります。

 FP-303のフライトマニュアルには"風下への飛行 (Downwind Flight Operations)"という項目があり、次のような注意が促されています。
 風下への旋回(Downwind Turn)中、失速して落ちた飛行機があります。
 また風下への旋回中、急に対気速度計が55 mph から35 mph に落ちた例もあります。
「マイクロライト機」と「普通の飛行機」の相違点で注意すべきは「最大速度と失速速度」の差が小さい事です。(これはマイクロライト機が強風下で飛行してはならない理由です) もし強風の中を飛行することになってしまった場合、「風下への旋回」で失速することがないようにDownwind Turnは高速で飛行する事。さらに風が強い場合は機速を確保する為に降下しながらの旋回をすべきです。

 初飛行から2年近く、私のFP-303は約40時間、80 Landing くらいの飛行を重ねています。
安全な飛行を楽しむため、操縦についても整備についてもまだまだ学んでゆく必要があります。まだまだ新しい発見、感動が続きそうです。

 自作航空機の本場、米国ではEAA (Experimental Aircraft Association) が設立された1952年から数えて既に30,000機以上の自作機が登録されたそうです。そんな航空大国のアメリカでもFP-303のような「材料キット」を購入した愛好家の全ての人が最後まで完成できるとは限らないようです。
 以上のように私の場合、長年にわたって製作を続け、初飛行に至るまで頑張れたのは、一緒に飛行機作りをやってみたいという友人が現れ2人3脚で続ける事が出来たこと、また飛行クラブの友人達が良く製作を覗きに来て、冷やかし、励ましをしてくれたおかげだと思い大感謝です。
 また航空法に関わる許可の取得に付いては「日本マイクロライト航空連盟・事務局」のお世話になり、必要な文書の作成などについてもアドバイスを受ける事が出来ました。

おわりに

日本の超軽量動力機

 日本では現在この種の飛行機は航空法上「耐空証明を持たないレジャー航空機の取扱い」を定めた「航空局・サーキュラーNo.1-007」の適用を受け、超軽量動力機として飛行することが出来ます。
 いわゆるウルトラ・ライト・プレーンです。マイクロ・ライト・プレーン(MLP)とも呼ばれます。超軽量動力機は「舵面操縦型」、「体重移動操縦型」そして「パラシュート型」に分類されていています。私の製作したFP-303は「舵面操縦型」です。
 以下は大雑把ですが、サーキュラーに規定される舵面操縦型MLPの定義です。
機体の自重が1人乗りの場合180Kg、2人乗りの場合225Kg
主翼面積は10m2以上、
失速速度65Km/h (35kt)以下
最大速度185Km/h (100kt)以下
プロペラで推力を得ること、
積載燃料は最大30リットル
 日本国内でこのFP-303を超軽量動力機として飛行を楽しむためには、この機体が前記の「サーキュラー No.1-007」を満足する事を証明する書類を提出する必要があります。このキットには材料と図面、およびフライトマニュアルが準備されていましたが、残念ながら「サーキュラー」に要求される書類が充分ではありませんでした。
 そのため許可取得に必要な文書作成は若干手間取り、特に以下の書類作成にかなりの時間を要しました。
 1. 図面、および実物を参考に機体の三面図を書くこと
 2. 飛行規程、整備規定を英文のフライトマニュアルから和文で作成する事
 3. 各種系統図を書くこと
 4. 部品リストの作成

米国のウルトラ・ライト・プレーン(ULP)


 例えば米国ではFAR Part103(連邦航空法 103条)にウルトラ・ライト・ビークル(ULV・poweredとnon-poweredが有る)として定義されておりますが、その定義に入る飛行機はULVであるので免許不要、型式証明不要、耐空証明不要、機体登録不要でという取り扱い方です。
(参考)FAR Part 103<Ultra Light Vehicle (ULV・以下poweredの場合)の定義>
 ・ 動力機:自重254 lbs (115.3Kg)以下 [注:グライダー(non-powered)は自重155 lbs (70.4Kg)以下]
 ・ 最大出力における水平飛行速度: 102 km/h(55kt)以下
 ・ Power Off失速速度: 44 km/h (24kt)以下
 ・ 乗員:一人
 ・ 搭載燃料:30リットル(5 USG)以下

米国のスポーツ・パイロット/ライトスポーツ・エアクラフト(SP & LSA)

 上記のように、日本とアメリカでは定義が異なりますが115 Kgを越える機体や2人乗りの機体はライトスポーツ・エアクラフト(LSA)または自作機(エクスペリメンタル)機となり、スポーツ・パイロット(SP)免許で飛ぶ事が出来ます。
 ライトスポーツ・エアクラフト(LSA)の範囲はパイパーカブ位までの大きさの機体が入ります。SP / LSA制度は2004年9月FAA(米連邦航空局)により制定しました。その魅力は性能面でもULVとは比較にならない行動範囲の広いレジャー機に乗る事が出来ることですが、ULVのメリットはなんと言ってもFAR Part 103の範囲内であれば、すべて自由に楽しめることで、ULVの範囲で充分とする人も多く居るようです。

参考

 米国Fisher Flying Products社は、2009年にカナダ人のオーナーに売却され、現在は新Fisher Flying Products社が同じキットを取り扱っています。
http://www.fisherflying.com

 超軽量動力機を楽しんで見たい方、「JML/日本マイクロライト航空連盟」にお問い合わせ下さい。
〒105-0004 東京都港区新橋1-18-1航空会館 (TEL 03-3519-2645) http://www.flyers.jp
   
     
2008年8月、記念写真(筆者:左から3人目)
   
          
石原 能行(いしはら よしゆき)
 守谷フライングオーナーズクラブ
         
         
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