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ボーイング747セクション41展示物語
(後編)
小林 忍
2012. 5. 15
   
   
■日本での組立作業

 成田航空博物館までの陸送は正月明けの1月上旬と中旬の2回に分けて行った。2回目は大雪が突然降ってきた。

   
   
写真8 成田航空博物館までの陸送。2回目は大雪の中。
   
   
 当初の計画は、展示場所の整地と躯体の完成が3月中旬に予定されていたが、整地が地面に埋まっていたコンクリートの塊の取り出しで、意外と大変なことがわかり、約1か月後ろに伸びることが分かった。当初は、8つに切断したセクション41を一つ一つ躯体に取り付ける予定であったが、完成時期を7月末とすると間に合わないので、①と②、⑤と⑥をテント内で組み立てることにした。結果的には、これが大成功であった。

   
   
写真9 テント内での組立の様子。この写真は⑤と⑥の接合。
   
   
 3月11には東日本大震災が発生した。損傷確認のため1週間ほど作業が遅れたが、幸いにも躯体を含めて破損はなかった。
 4月上旬になると見学者用階段を除いて躯体がほぼ完成した。テント内の組立作業、外部塗装もほぼ完成した。

   
   
写真10 4月上旬、躯体がほぼ完成。
   
   
 4月中旬になり、いよいよ地上で組み立てた①と②を躯体に取り付ける時が来た。仮取付にどれくらいの時間がかかるかも予想がつかなかったので、通常は9時くらいから作業を開始しているが、とにかく夕方の明るいうちに作業を完了する必要がある。仕事を8時からスタートすることにした。当日は、①②をつり上げるクレーン車も朝早くから到着した。通常の作業者に加えて、JAL成田整備工場からも応援者が駆けつけてくれた。
 諸準備は9時半くらいまで完了し、クレーンでいよいよ吊り上げ、水平を確保しながら躯体への取付が始まった。この時、何よりも感心したのは、クレーン操作の正確さであった。5ミリ単位で、傾き、高さを調整したのである。驚いたことに、予定通り運ばないだろうと思っていた作業が、ノーズギアの取付を含めて、お昼までに完了してしまったのだ。中村氏、袖岡氏の事前準備がいかにしっかりしていたか、クレーン操作の正確さにただただ感心した。博物館さんの作業は午後までかかるだろうという読みで、マスコミ関係に連絡していただいたが、午後から駆けつけたマスコミ関係者は当てが外れてしまった。
   
   
写真11 組み立てた①と②を躯体に取付。その1。

   
   
写真12 組み立てた①と②を躯体に取付。その2。

   
   
写真13 組み立てた①と②を躯体に取付。その3。


写真14  組み立てた①と②を躯体に取付。その4。

   
     5月になると胴体側面の外板④、⑤を取り付けた。クレーン操作の正確さ、あらかじめ準備していた位置決めのジグ・バーのおかげでこれも午前中に仮付けが完了した。    
   

写真15 胴体側面の外板④、⑤の取付。その1。


写真16 胴体側面の外板④、⑤の取付。その2。


写真17 胴体側面の外板④、⑤の取付。その3。
   
   
 5月の下旬にいよいよ操縦室と2階席⑤⑥の取付が始まった。多少のずれを覚悟で取付を開始したが、ピタッとずれもなく取り付いた。改めて、航空機は正確に製造されていることを知った。

   
   
写真18 操縦室と2階席(⑤⑥)の取付。その1。


写真19 操縦室と2階席(⑤⑥)の取付。その2。


写真20 機首部⑦の取付。その1。取付開始前に記念撮影。左から袖岡さん、佐伯さん、中村さん、筆者、堀越さん、佐藤さん、近藤さん、小柳さん
 

写真21 機首部⑦の取付。その2。もう1枚記念撮影。
 
写真22 機首部⑦の取付。その3。

   
     ⑦の機首部をこれも難なく取り付けると、いよいよ客室内装品の取付が始まった。実は、マラナでは、分解前に内装品の取付場所を確認したのちに取り外すことになっていたが、手違いから現地に到着した時は既に内装品が取り外されてしまっていた。客室担当の佐藤、近藤両氏を筆頭に、部品一つ一つを丁寧にクリーニングしたのち、根気強く内装部品一つ一つをまるでジグソーパズルのごとく取り付けていった。根気のいる作業であった。

   
   
写真23 内装品の取付。その1。


写真24 内装品の取付。その2。


写真25 内装品の取付。その3。


写真26 ノーズレドームの取付。
   
   
 ノーズレドームを取り付け、全てがうまくいき予定通り7月下旬に完成した。最後は、雨漏りがないか外部から水をかけて検査した。

   
   
写真27 完成した内装。


写真28 操縦席。


写真29 水を掛けて雨漏りをチェック。
   
   
■プロジェクト終了!

 一般の方には、どこを繋いでいるのかかからないくらいに精緻に組み立てられている。
 1、2月の寒い中での作業と7月では気温差が40℃くらいあったのではないか。シーラントの乾燥時間も温度にずいぶん左右されるので、苦労したとのことであった。いつもは格納庫の中で作業するメンバーも、今回はすべてテントや、野外の作業となった。安全第一と言っていたが、全員けがもなく作業を完成することが出来た。こんなに完璧にプロジェクトが完成するとは、当初予想もつかなかった。
 終わって考えると、何事も周到な事前準備が大切であること、クレーン操作の確かさ、クレーン操作は4回行ったが、風を含めて天候に恵まれたこと、素晴らしい業者、仲間に恵まれ、チームワークの良さが完璧な作業につながったと考えている。我々の作業を陰で支援してくれた成田航空博物館の皆様へも感謝申し上げたい。

 最後に、作業に参加した全員が勢揃いして完成したセクション41の前で記念写真をとった。改めて写真を見ると「大きなプロジェクトを完璧なまでにやり遂げた安堵感」と「どんなもんだ」と言わんばかりに見える。彼らも今回のプロジェクトは単なる作業ではなく、まさに航空技術者としてのプライドをかけたものであった。実力をいかんなく発揮してくれた、中村氏、袖岡氏、佐伯氏、渡辺氏、小柳氏、堀越氏、佐藤氏、近藤氏に心より感謝を申し上げたい。

   
   
写真30 完成したセクション41の前で記念写真。左から、小柳さん、佐藤さん、近藤さん、中村さん、筆者、佐伯さん、堀越さん、袖岡さん。

   
     完成後、成田博物館の館長である鶴岡さんから言われた。「小林さん、こんな仕事があればまたやりますか。」私はこう答えた。「今回は出来すぎです。しばらくはゆっくりとさせてください。」
 成田に出かける機会のある方は、空港に隣接している成田航空博物館で、このセクション41の展示物をぜひ見学していただきたい。
   
     (おわり)    
   


小林 忍 (こばやし しのぶ)
(株)JALエアロ・コンサルティング

 

   
         
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