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お茶の間飛行機ビルダー
―自分で作った飛行機で空を飛ぶ―


日本マイクロライト航空連盟理事

藤田恒治

*本記事は『航空と文化』(No.109) 2014年夏季号からの転載です。
2014.8.20
 
     
 

1.私とマイクロライトプレーンとの出会い

 私は子供のころから機械いじり、工作が大好きで特に自分で扱える乗り物(ボート、2輪車、4輪車、飛行機)が好きで飛行機は紙飛行機からゴム動力のライトプレーン、Uコン、ラジコンと遊んできました。飛行機のイベントがあると飛行機仲間とよく出かけました。1975年頃に本田航空で行われたイベントで自作飛行機を見て、これは今まで作った模型飛行機を大きくしたのと同じ感じでこれなら作れそう、自分でも作って飛んでみたいと思いました。

2.最初の機体

 いろいろ聞いてみるとライセンスがないと飛ばせないことが解りあきらめかけたのですが、そのころ日本でもハンググライダーにエンジンを付けたタイプが飛び始めてだんだん飛行機タイプのマイクロライトプレーンが紹介されるようになって来ました。
 これにすぐに飛びつきウイードホッパーという2舵(エレベーターとラダーでのみ操縦)、アルミパイプにダクロンのセールをかぶせただけの簡単な機体を購入、組み立てを開始しました(写真1、2)。マニュアルも英語のため組み立ても1月ぐらいかかったと思います。今なら 1週間ぐらいで組み立てできるキットです。
 飛行の練習もマニュアルの中に書いてあるように、地上滑走、ノーズ上げ、ジャンプ飛行と練習して、その日のうちに初飛行でした。それから毎週天気がよければ飛行場通いです。機体を組み上げ飛行して自分好みに調整して4、5年楽しむと違う機体を作りたくなり、次々とこんな感じでフルキットのマイクロライトプレーン5機ぐらい作っては遊んでいました。
 
   
写真1 これが最初に作ったウイードホッパー


写真2 こんな感じで運んでいました
 
 

3.ウルトラクルーザーとの出会い

 “Kit Planes”というアメリカで出版されている自作航空機の雑誌でハンメルバードという全金属製の機体を見て、こんな機体をいつかは作ってみたいと思いました。しかし、残念なことにハンメルバードは運輸省(現国土交通省)航空局が定める超軽量動力機の基準に入っていませんでした。超軽量動力機の基準に入ると一般の飛行機に比べて比較的簡単に飛行許可を得ることができるのです。ちなみに、「超軽量動力機」という語感が良くないということで、日本では一般的にマイクロライトやウルトラライトと呼ばれています。
 2000年になって雑誌に同じ設計者のウルトラクルーザーが登場し、作りたくなりました。ウルトラクルーザーは、ハンメルバードを一回り大きくしてマイクロライトの基準に合わせたものだったのです(図1)。
 
 
図1 ウルトラクルーザーの三面図


 
 

4.機体購入

 私は英語が苦手で同機を設計したHummel Aviationにいろいろ問い合わせしたくてもうまく出来ません。あれこれしているうちに3ヶ月が過ぎてしまいました。英語が達者で飛行機が好きな友人を思い出し電話でお願いしてみました。彼は快く引き受けてくれました。
 早速 Eメールで設計者のMr. Morry Hummelと連絡を取り、2000年の10月末に設計図とビデオを注文しましたが図面は全部出来上がってなく、その後何回かにわたって送ってきました。設計図とビデオを見比べていくといろいろ違っていて、これはアメリカに行って直接見てくるしかないと思い、オハイオ州ブライアンに出かけ設計者Morryさんに会いました(写真3)。格納庫でウルトラクルーザーを見せてもらいながらいろいろ質問して、自分の工具でできない部分の加工をお願いして帰ってきました。
 2002年3月、待ちに待った材料、既に整形・加工済のプレハブパーツとエンジンが送られてきました(写真4、5)。
 
 
写真3 Mr. Morry Hummelと格納庫にて


写真4 プレハブパーツ(リブ、バルクヘッド、メインギアー、溶接部品、その他)


写真5 エンジン
 
 

5. 製作開始

 いよいよ作業開始です。2人の子供も独立して子供の部屋も利用できるので、金属機ならくずもそんなに出ないし臭いもないから、6畳の座敷にブルーシートを敷いて作業場にしました(写真 6~17)。自作機には鋼管羽布張り、木製、コンポジット、オール金属などありますが座敷で作業するにはオール金属が一番だと思いました。費用は鋼管羽布張り、木製、コンポジット、オール金属どれもほとんど変わらず、1人乗りだと機体の材料5,000ドル前後、エンジン関係5,000ドル前後、計器類1,000ドル前後からだと思います。
 
   
写真6 胴体治具に胴枠をセット


写真7 胴体スキンを紙で型取りして厚さ0.016インチのアルミニウムシートから切り出す


写真8 切り出したシートを手曲げして、胴枠とシートに穴あけ治具を使って下穴を開けクリコ(シートファスナー)で仮止め


写真9 銀色のクリコは1サイズ小さい穴用で、最初はこの穴ですべて合わせて異常がなければ本穴を開け、茶色のクリコで仮止めでしてポップリベットで組み付けます


写真10 エンジンマウント周りの組み付け、強度の高いADソリッドリベットの打ち込み


写真11 主翼スパーの製作


写真12 製作した主翼スパーにリブをセット


写真13 センターウイングスパーを胴体に組み込む


写真14 適当な木材でベンダーを作り、ウインドシールド枠、キャノピー枠を製作してウインドシールド、キャノピー、タートルデッキ、の仮組を行います。この部分の製作はなかなか難しく全体のラインをうまく合わせるのに苦労しました


写真15 ほぼ完成したコクピット


写真16 いよいよ完成間近


写真17 ほぼ完成!
 
 

6.遂に完成

 2001年から製作を初めましたが、途中で図面変更があったりで2003年に完成しました。書類は苦手ですので飛行許可申請は自作航空機の愛好者団体であるエクスペリメンタル航空機連盟(略称:EXAL)の方へお願いしました(写真18)。飛ばす場所、機体、乗員についての3つの許可が必要で、特に飛ばす場所の確保ができないと作っても飛ばせない機体になってしまいます。許可もおり、9月に初飛行しました。思ったようないい感じの飛行機でしたが、2回目の飛行で操縦桿に違和感がありあわてて降りてみましたら水平尾翼の前縁がつぶれていました。設計者に連絡相談すると、プロトタイプの材質と図面の指示が違うことと私の工作方法が違っていたことが原因だったことが判明しました。キット製造元で対策が検討され、現在の図面では補強のスパーが追加されています。
 
 
写真18 完成したウルトラクルーザーと筆者(右端)および飛行許可申請を行ったEXALの濱尾豊会長(中央)、藤原洋理事(左端)
 
 

7.飛行の楽しみ

 始めたころはただ飛ぶことだけが楽しく感覚だけで飛行していましたが、いろいろ経験してくると高翼、低翼、中翼、トラクター、プッシャーなどの形態・機種ごとの飛行の癖などがわかってきて自分好みに調整するのが楽しみになっています。
 飛行も誰に教わったわけではありませんが、飛行を経験してみて教科書に書いてあることが実感できるようになるのが楽しみです(写真19)。
 ウルトラクルーザーではテスト、調整飛行を2年ぐらい続け、その後90時間ぐらい飛行を楽しみましたが、エンジンスタートが手がけのためだんだんきつくなってきたのといろいろ手直ししたいところがでてきました。そこで2009年からスターターを付けた 2号機の製作を始め2011年に完成、JR1908という航空局が発行する識別記号を得て現在も毎週フライトを楽しんでいます(写真20)。
 
 
写真19 飛行中のウルトラクルーザー


写真20 ウルトラクルーザーの2号機
 
 

8.おわりに

 私の楽しんでいるマイクロライトプレーンとは車にたとえるならゴーカートやレースカーのようなもので、自分たちで製作、整備を楽しみ、決まった空域でフライトを楽しむホビーです。どこかへ飛んでいくのが目的の実用機ではありませんが、こんな楽しい遊びを皆さんに知ってもらい仲間が増えることを楽しみにしています。
 
  (おわり)   
  日本マイクロライト航空連盟理事
藤田 恒治(ふじた つねはる)
 
 
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