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コンピューター機能としての優れもの−人間
-ヒューマンファクターを考える(2)-
 黒田 勲
2006.04.15
   
   
  ある機械やシステムが、安全で、有効に機能するためには人間の要因が不可欠であると前回述べた。人間の生活範囲を広げるために、石器を作り出し、色々な道具を発明してきた人間の長い技術革新の歴史を振り返って見ると、か弱い生物である人間が、知恵と工夫と失敗から学びながら生存し、発展してきたことが判る。

 人間の狭い能力の限界を拡大することの出来る機械文明が発達してきたのは決して古い時代ではない。産業革命で人間の力を代替する馬や牛の力から蒸気機関などの力の機械が人類の歴史に登場してくるのは、僅か200年前である。さらに内燃機関から電気機関へと様変わりしてきた。木のエネルギーから石炭のエネルギー、石油エネルギー、電気エネルギーへと発展し、いまや原子力エネルギーまで利用できるようになって来た。

 技術革新の歴史は決して平坦ではなかった。特に人間生存機能のデザインから外れている空中への進出の憬れは、飛行、航空機の開発歴史に見られるように、実に多くの失敗の積み重ねで、多くの人命も失われて来た。この失敗を乗り越えて挑戦してきた経験と反省の歴史が、他の機械文明の分野に較べてヒューマンファクターの問題を素直に認識させることの出来る素地を、航空分野において作リ出しているのかもしれない。

 20世紀最大の技術進歩の一つは電子コンピューターの発明であろう。確かに世界の動きを大きく変革させる、生活環境への空間的、時間的影響を与えている。これは人間の頭脳の情報処理を如何に真似るかと言う工夫と発明である。しかしながら現段階においても、コンピューターは人間の主要な情報処理機能には遠く及ばない。

 表は人間の頭脳と、コンピューターの機能を比較したものである。確かに入力・出力の処理速度や、計算速度は速いが、記憶容量、基本要素のレベルや数では全く足元にも及ばない。特に省エネルギー型で、しかも電源接続不要で、何処へでも携帯可能の点において優れている。最近ノート型パソコンが流行しているが、携帯型大型コンピューターはまだ開発されていない。特に省エネルギーは大切な性能で、そば一杯のエネルギーで十数時間連続稼動し、時には過労死するまで稼動を続ける人もいる。

 おまけにコンピューターはプログラムで教えたことしか出来ない、融通の効かない愚か者であるが、人間の脳は自己適応プログラム能力を持っており、教育・訓練が可能である。

 コンピューターがどうしても真似ることの出来ないのは、入力機能である知覚の多様性と鋭敏な感受性、人間の古い脳に組み込まれた情緒、意欲などの機能である。

 このような優れものに進化してくるのに、数十億年、人間らしくなってからも約500万年掛かっていることを忘れてはならない。

 事故が起きるとすぐに「ヒューマンエラーである」と非難をするが、自分もその人と同じ仲間の「人類」で、「人類」の幸福と便利さと豊かさのために努力し、共生して来た生物であることを忘れてはいけない。
表 人間の脳とコンピューターとの比較
     人間の脳 コンピューター
情報処理モード パラレル処理
デジタル・アナログ
時系列処理
デジタル
入力・出力 〜25bits / sec 〜106bits / sec
記憶容量
タイプ
1013〜1020bits
連合
1016bits
アドレス
要素の計算時間 10-2〜10-1sec 10-6〜10-5sec
基本要素
   サイズ
   数
   密度
10-8〜10-5cm3
〜1010
〜107 / cm3
10-2〜100cm3
〜105
〜10-1 / cm
3
進化年数 〜109 50年
重さ 1.4Kg 数ton〜数Kg
消費カロリー 18カロリー / 時 数万カロリー / 時(大型)
移動性 常時携帯型 固定型・携帯型

くろだ いさお、日本ヒューマンファクター研究所 所長 

         
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