財団法人日本航空協会
航空と文化
「第2回宇宙旅行シンポジウム」開催報告
1.開催趣旨
2.ポスター
3.プログラム(概要)
4.パネルディスカッション報告

2007年3月3日(土曜日)13:00〜17:00
航空会館 7階 大ホール
主催 :財団法人日本航空協会 日本ロケット協会
協力 :株式会社日本航空 全日本空輸株式会社 社団法人日本航空宇宙工業会
1.第2回宇宙旅行シンポジウム開催の趣意書
 スペースシップワンがアンサリXプライズを獲得して以来、民間による商業有人宇宙輸送の計画が本格化してきました。ヴァージン・ギャラクティック社は乗客6名が搭乗できるスペースシップ2の開発を進めており、2008年には乗客を乗せての観光旅行を行う予定で、すでに多くの旅行希望者が予約をしています。我が国においても旅行会社が宇宙体験弾道飛行から月旅行までの商品を発表するなど、宇宙旅行への高い関心が寄せられており、今後国内でも宇宙旅行が民間のビジネスとして急成長する可能性が見えてきました。昨年、創設50周年を迎えた日本ロケット協会および日本航空協会では、これまでに「観光丸」を中心とする宇宙旅行の研究を進め、民間による有人宇宙輸送のための法整備や宇宙観光旅行商業化についての研究など、有人飛行や宇宙活動を活性化させることを目的として活動を行っています。

 2005年に初めての宇宙旅行シンポジウムを開催してからわずか2年でこのように国際的に宇宙旅行を巡って急展開があるなか、我が国においても有人宇宙飛行を目指した独自の活動についてご紹介し、今後のより一層の活性化を促すことを目的として、以下の講演とパネルを企画しシンポジウムを開催いたします。


2.ポスター
クリックすると大きくなります
3.プログラム
基調講演(13:10〜14:10)
「『2055年宇宙万博』で月面パビリオン建設へ」 山根 一眞 ジャーナリスト

一般講演(14:20〜16:30)
「]プライズ後の宇宙旅行をめぐる動き」 大貫 美鈴 SFFアジア地区代表
「米国における商業宇宙旅行の育成と法規整備」 橋本 安男 日航財団
「我が国の宇宙パイロット養成を考える」 高野 開 元全日空機長
「再使用ロケット実験機から有人飛行へ」 小川 博之 宇宙航空研究開発機構
「宇宙観光への期待と有人宇宙飛行のための技術」 志村 康治 三菱重工業

パネルディスカッション(16:40〜17:50)
パネラー 基調講演者 山根 一眞 ジャーナリスト
一般講演者 大貫 美鈴 SFFアジア地区代表
橋本 安男 日航財団
高野 開 元全日空機長
小川 博之 宇宙航空研究開発機構
志村 康治 三菱重工業
大島 弘義 中日新聞社(東京新聞)
以上7名
コーディネーター 的川 泰宣 宇宙航空研究開発機構
4.パネルディスカッション報告
 第2回宇宙旅行シンポジウムが2007年3月3日(土)航空会館7階大ホールにて開催されました。土曜日にも拘わらず172名の参加者が集まり、2年前2005年3月10日(土)開催の第1回シンポジウム同様、会場は宇宙旅行への熱気で一杯となりました。当日のパネルディスカッションにおける討議を再現して、会場の熱気をお伝えします。

的川 みなさん、こんにちわ。
 ここにご登場くださったパネラーの方はいずれも、さきほどご講演いただいた方ですが、お一人だけ、東京新聞といえばいいのか、中日新聞といえばいいのか、大島さんに新たにご登場いただいておりますので、いろいろな方のお話を聞いた感想とかでもいいですし、聞いた後の問題提起的でもいいですから、最初に導入として少しお話をいただければと思います。よろしくお願いします。

大島 はじめまして、中日新聞、大島と申します。
 私が勤務していますのは、名古屋に本社のある中日新聞社。その東京で作っている商品の名前が東京新聞です。ほかの大手全国紙は、例えば、東京と、名古屋と、大阪と、九州では全然違う新聞を作っているにもかかわらず、商品の名前はY新聞であったり、A新聞であったりというのは全く同じなのですけれども、私の属している会社だけは、金沢のほうに行くと北陸中日新聞といったりして、地域によって商品の名前を変えているというのが、なかなか皆さんにアイデンティファイされません。こういう新聞社に、私は6年、科学部に所属しています。
 私は、皆さんのお手元の講師経歴にあるように、工学部の出身で、土木工学を学んでいました。構造動力学ということで、風や地震に対する振動みたいなことをやっていたのですが、就職時が、ちょうど経済バブル期でありまして、各社が割合遠い将来の新分野に挑戦していました。ここにいらっしゃいます大貫さんがゼネコンで宇宙ホテル建設構想の担当となって、土木分野でも宇宙に物をつくろうという構想を企画するような、まさにそういう感じの時代でした。私自身、航空学科のほうに宇宙工学なにがしなどという授業を受講したりしていて、もしかしたら、社会基盤であるとか、土木建築の分野も、これから宇宙に行くのかなと。土木をやっている学生でも、宇宙には夢があるのかなと。当時はたぶん、そう思ってそうした授業を受けていたのだなと。そんな風なことを今、後付けなのですが、振り返っています。

希少な国家予算を有人宇宙に引き寄せる努力をせよ


大島 先日、学生当時のレポートを、実家で見つけまして、20年くらい前のものですが、めくってみたら、「それまでに計画された宇宙ステーションが実現しなかった理由を考えよ」という問いが出ていまして、これに私は、安全性、確実性に問題有りだとか、費用が高いなどと書いているのです。先生から返されてきたレポートのコメントに、「お金を引き出せる魅力的な計画が作れなかったのではないか」というような趣旨が書いてありました。これは、実は、昨今、ISSで言われているような議論とあまり変わらないのではないかなと。先ほど、志村さんのお話に、技術的にはすごく進んでいるというのを改めて再認識したのですが、言われていることの基本はそんなに変わらないのではないかと思ったりします。もしかしたら勘違いかもしれないので、ご批判いただければと思います。
 新聞記者になって、名古屋の社会部で名古屋大学を担当していたときに、「向井千秋さんが大学に来ているよ」という情報をキャッチしまして、一所懸命に居所を探して会いに行ったことが、新聞記者になって初めて宇宙と関わった経験です。時に、向井さんは2度目の宇宙に行く直前だったかと思うのですが、全く実験内容とかが分からない私にも丁寧に、丁寧に説明してくださいました。その後、取材した宇宙飛行士の方はどなたも、とにかく、こちらの質問にはものすごく丁寧に答えてくださるのです。こういう方が飛行士になるのだなというか、日本の有人宇宙をリードしていくのだなという印象を受けました。その思いは、今も、あまり変わっていません。
 2001年に科学部に来たのですが、当時、科学部は記者が4人だけ。部長以下4人なので、実質、外に出回っている記者は、私のほか、もう一名しかいなかった。宇宙だけを取材しているわけではないので、専門家の方と真っ向から議論をするような経歴でもないのですが、5、6年科学部記者をやってきて、他の分野との違いといいますか、比較みたいなことは多少語れるのかなと思って、きょう、ここに座っています。
 宇宙関連ですと、宇宙飛行士・野口聡一さんのミッションと、その前のコロンビア号事故とで、2度ばかりアメリカに取材に行ったこと、それと、「はやぶさ」探査の取材がとても印象に残っています。自分が工学部ということも関係あるのかもしれませんが、科学とか技術というのは、分からないことを見つけたり、できないことを乗り越えたりすることがすべての基本であって、そこに科学者や技術者の夢や目標があるということが私の基本的な考えとしてあるわけです。「はやぶさ」は、惑星からのサンプルリターンに挑戦しましたが、そのとき的川先生と一緒に相模原の会議室で、ほぼ徹夜をして、一夜、二夜、何日間か寝ずの日々を過ごしたという経験が未だに記憶に生々しく残っております。
 野口さんの取材は一昨年でしたが、アメリカに行って、アメリカメディア10人くらいに、野口さんはどの程度名が知られているのかとか、どう思われているのかと聞いて回りました。社交辞令もあるのでしょうが、かなりいい印象を持たれていて、「野口、野口聡一だ」と褒めてくださった。日本人がこういう形で世界で、宇宙で活躍するということは、日本人としてアメリカ取材をして非常にうれしいことであって、そういうことが宇宙の夢を育んでいくことになるのだなと再認識した次第です。
 科学技術について言えば、科学者とか技術者は基本的には自分の思いに従ってやっていけばいい。どんどんやればいい。その限りにおいては、有人宇宙についてもやりたいという思いを持つのであれば、自分の思いに従って積極果敢に進めていって欲しい。ただし、そこで一言。現状の宇宙開発に目を向ければ、国が資金を出さないことには進んでいかないという現実があります。そこで、独自の有人飛行技術をやるのに、いったい幾らかかるのかを改めていろいろ聞いてみましたところ、そういう数字は公式にはないというのが答えのようでした。実際には、H−UAロケットの開発がざっと2千億円。それを参考に考えると、最低1兆円くらいはかかる感じです。そうなると、国の税金を使ってやる以上、やはり、どのくらいお金がかかって、どういう形で進めていくのかという見通しについては、もう少しきちっと語っていただく必要があります。そういう手続きを踏みませんと、有人飛行を「やりたい」「やっていいですよ」という議論にはなかなかなりにくい、というのが個人的に感じていることです。
 有人宇宙をやるとなりましたら、その際には、まず宇宙分野の他の予算には必ずしわ寄せがいくわけで、広く科学技術の予算にも、おそらくしわ寄せがいくでしょう。要するに、必要だからやるとしたところで、有人飛行の予算がすぐに増額してもらえるような現状ではないと思いますので、本当に本気でやるのであれば、周辺分野、広く科学技術の予算配分に大きな影響を与えるのですから、そこらあたりをJAXAさん、あるいは文科省さんにどれほど決断ができるか。そういうことがこれから非常に大きいと思っています。
 そこで提言です。有人飛行を進めたいと思っていらっしゃる先生方、技術者の方、研究者の方には、そこのところに是非もっと声を張り上げてPRして欲しい。お金がない中で、ここまではやる、こういうことはやれるということも含めまして、もっともっと声を上げて世の中の関心と理解を高めていただきたいと思っております。
 自己紹介に併せて、意見を言わせていただきました。どうもありがとうございました。

的川 ありがとうございました。
 ただ今、大島さんがおっしゃったお話には、有人飛行への方向性として、その動機づけですかね、幾つかの要素が含まれていたと思います。すでに発表していただいた6人のご講演で非常に目についたのは、アメリカはここまで進んでいるという話でした。では日本でどうかという話は、現状をちょっと話されたという程度というふうに思いました。
 本日この会場にお集まりになった方々に、最初に雰囲気を確かめるためにお聞きしたいのですが、搭乗代金が24億円要るという話は抜きにして、宇宙に行ってみたいと思っていらっしゃる方、申し訳ないのですが、手を挙げていただけませんか・・・・ありがとうございます。大変に多くの方が「宇宙に行ってみたい」と希望され挙手くださいました。
では、行ってみたくないと思っていらっしゃる方は・・・・いらっしゃいますね。数人の手が挙がりました。理由はお聞きしませんけれど。
 そうしますと、きょうは有人宇宙飛行推進の雰囲気でやればいいという話でしょう。
有人飛行について大島さんが言われた中で、動機づけみたいなものが幾つかあったと思うのです。まず、若い頃に感じたとおっしゃったのですけれど、夢とか、冒険とかというものが、まず第一。二つ目に、これは互いに重なりあう領域がありますから非常に曖昧ですけれど、科学技術というような側面ですね。三つ目として、産業とか商売とかというような側面、それから最後に、国威発揚あるいは国の誇りのようなものですかね。
 この四つを挙げた場合に、日本はこういう理由で有人飛行をやるべしとお考えのことを、個別に手を挙げていただきたいのですが。私が先ほど宇宙に行きたいかとお聞きした個人的な動機と少し違うかもしれませんけれど。何回も挙手いただいて結構です。
 最初に、夢の実現とか冒険というのが一番大きな動機づけではないかと思われる方は、どうでしょうか・・・・3分の1というところでしょうか。
 科学技術の向上・科学探査という側面からというと・・・先ほどより多いように思います。
 産業とか商売とか、民間投資というと・・・少なくなりましたが、多くの方が手を挙げていらっしゃる。
 最後に国威発揚とお考えの方は・・・ぱらぱらとしかいらっしゃらない。10人いらっしゃるかどうか、意外に少ないですね。
 そのような分布ですね。
 山根さん、ただ今手を挙げてくださった方々の反応をいかが受け止めますか。

宇宙旅行は一国を代表する文化のひとつ

山根 宇宙というのは、宇宙旅行というのは、まだまだ特殊だなと思うのです。宇宙旅行の話に関連して、ジャルパックというのが初めて出てきた時のことを思い起こしてください。まだ誰も海外旅行へ行けないころに、「トリスを飲んで、ハワイへ行こう」というのがありましたね。あれで、みんな一所懸命にトリスを飲んだかどうか分かりませんけれども、要するに、そういうものだと思うのです。トリスを飲んでハワイへ行くのが国威なのか、トリスを飲んでハワイへ行くのが産業とか科学技術なのか、では夢や冒険なのか。僕は、どれもちょっと違って、何かもうひとつ違うものがあるような気がするのです。たぶん、今までこういう夢や冒険とか、科学技術とか、産業とか、国威とかでやってきたのが宇宙なのだけれども、宇宙旅行というのはもう少し違う、人間の最も基本的な欲求みたいなものがあるような気がしています。それは「楽しさ」ではないか。「楽しい」というのが夢、冒険の一部なのでしょうかね。でも、なにか違う・・・・例えば、ちょっとヨーロッパへ行きたいねというときに、それは夢や冒険で行くわけではなくて、それとは違うリフレッシュメントなのでしょうかね。何でしょうね。レジャーというくらいな気楽なものではないかと思うのです。
 政府や国などの総合学術会議というところで有人飛行の議論とかをやると、一人でも死んだら、もう後が無い、後は何もかもできなくなるみたいに、いつも悲壮に陥っていくわけです。それで本当にそこで終わっちゃうのです。そうではなくて、もっと軽いノリで「ちょっとみんなで2泊3日、宇宙へ行ってみない、今度の土曜日にさ」という気楽に言えるようなものなんだと思うのです。これは、国威でもないし、産業でもない。結果ですよね、全部。それを支えるのは、例えば、僕らが自由にジャンボジェットでニューヨークに飛ぶ。2万9千円とかいう格安切符、出てますよね。それは実は、ものすごい科学技術の成果であるのだけれども、そういうことをいちいち皆さんが思い起こして飛んでいくというわけではない。それと同じように、宇宙飛行に39万8千円という値段をつけられるようなことから考えていくのがいいのではないかと感じています。

的川 ありがとうございました。
 ただ今のお話がありましたので、宇宙機の発展を飛行機との比較で考えてみます。飛行機は1903年にライト兄弟が人類初の飛行に成功して、その時に空を飛びたいと思っていた人はずいぶんたくさんいたでしょうけれど、100年ちょっとで、今日のように安く便利に安全になって、一般庶民の手に届くようになりました。当時こんなに飛ぶようになるとは、たぶん誰も思っていなかったでしょうね。宇宙については、1897年ツィオルコフスキーの公式が発表されて、ロケットの理論が作られたのは飛行機と同じころでした。同じころを出発点としながら、宇宙についてはその後、技術的にはなかなか成熟してこなかったという歴史があります。どこが違うのか。飛行機でも、パイオニア的な仕事をやった人がずいぶんいて、戦争の道具となったりもして多額の開発資金も投じられた。宇宙を考えると、動機づけはともかくとして、飛行機と同様にもっともっと多くの努力が講ぜられなければいけないし、投入資金が何しろずいぶんかかるという話は、大島さんの話の中にもありました。
 お金がかかるというと、今日例えばバイオ、IT、地球環境、ナノテクなど大きな資金が投じられている分野が幾つもあって、国が投資する場合の条件として、宇宙技術に資金を投じるということになると、パイが同じなら、宇宙にとってなぎ倒さなければいけない競争相手がかなりいるわけですね。そういう多方面での技術開発に投じられる資金の宇宙分、あるいは宇宙観光分ということになると、結構議論が難しいことになってくるのかもしれません。
 そのあたり、志村さん、いきなりで申し訳ないですけれども、三菱重工業として、ご関係の方が会場に大勢いらっしゃいますけれども、若手としてどうお考えでしょうか。

志村 今回、パネラーをお引き受けするにあたって、資金のことを聞かれるのが一番嫌だなと思っていたのですけれども、いきなり来てしまい困っています。どうしても有人飛行をやるとなると、最終に辿りつくまでに一体幾らの資金が必要か、という話になりがちです。そうすると、日本はやった経験がないので、正直、メーカーとしても総額は分からないのです。シャトルやアポロが何兆円だったというNASAの例を参考に、そのくらいでしょうかと予測するしかありません。そういったことは、今すぐやるのは個人的にはどうかなと思います。小川先生の話にもありましたけれども、ちょっとずつ成果を出していって、認知していただくような方向で進む方が、リアルな数字が出てくるのでは。その場合、基本的には技術開発にもうしばらく時間が要ると思っていますので、できれば最初のうちは国から投資していただきたいと思っています。
山根 宇宙旅行というのは、たぶん単なる欲求とは違うと僕は思うのです。国は例えば、自国民に美しい絵を見せたいというときには公共の、あるいは国立の美術館を造りますよね。歴史を知らしめたいとなったら、博物館にお金をかけます。ですから、文化なのだと思うのです。今まで私たちが経験したことのない宇宙へ行くということが、もし文化なのだとしたら、先ほどレジャー、レクリエーションと言いましたけれども、宇宙飛行というのはこれまでのレジャー、レクリエーションとは全然違うレベルのものです。そういう意味での宇宙へ行くことに対する思想的な新しい構築、あるいはお互いの新しい認識を国民レベルで持たなくてはいけないと思うのです。だって、絵一枚、何十億円、何百億円でも、それが大事だと思えば、集めて博物館を、国が国立の博物館を造りますよね。音楽界も、国立でオペラ劇場を造っているじゃありませんか。宇宙飛行はそういうことの延長線、ある意味では、今まで経験したことない、ひとつの文化の担い手になっていく世界ではないかなと思います。

的川 ありがとうございます。
 昔、どなたかが書かれた本で、宇宙に行くと、飛行士がガラッと信心深くなるということが言われましたね。宇宙に行った体験によって人は、地球を見る見方、人間を見る見方、そういうものがうんと変わるのではないか、少なくともちょっと違った感じになるんじゃないか、というふうな考え方から、山根さんがおっしゃったように、気楽に行って楽しむというような領域まで、何か大きな動きが出るのかもしれない。これはみんなが行ったことがないので、まだ分からないですけれど、非常にムード的なものがありますよね。ただ、非常にたくさんの国民が、明確に「宇宙に行きたい」という表明をしたら、そのとき、きっと税金も投じなければいけないでしょう。そのへんがたぶん、宇宙旅行という言葉が持っている非常に雰囲気的な意味と関係があると思うのですね

宇宙旅行実現への探求がもたらすもの

的川 大貫さん、どうでしょうか。アメリカでは宇宙旅行熱が非常に盛りあがっています。日本でそれがどういうふうな受け止め方をされているのか、そして、我々はどういうふうに手を付けていけばいいとお考えですか。

大貫 宇宙旅行が持っている魅力なのですけれども、私は、先ほどの4つの質問のうち、個人としては夢や冒険というところに挙手したい。宇宙旅行は、行きたい人にとっては夢や冒険をかなえてくれる夢です。けれども、宇宙旅行というのは、全員が宇宙旅行に行きたいわけではないですし、宇宙に行く人だけの夢をかなえる対象ではないと思うのです。宇宙に行かない人にとっても、例えば、何かのエンジニアだったら、宇宙旅行機を作るという何かプロジェクトがあれば、そこに参画することによって自己実現ができますし、機体開発だけでなくても、ビジネス開拓でも、スペースポートの開拓でも何でもいいですけれども、自分の興味のある分野からのアプローチが可能だと思います。そういう意味で、宇宙旅行というのは、行きたい人の夢だけをかなえるのではなくて、それ以外の人の夢もかなえることができるということがいえると思います。
 また、行った人は、新しい、地上では持ち得なかった視座みたいなのを持って帰ってきて、それで神がかったりして、何か変化があるのか分からないですけれども。ただ、宇宙旅行で地球を外から見ることによって、地球の大切さですとか、新たな視座を感じて戻ってくるわけで、宇宙旅行にたくさん出かけることによって、そういう人が自分たちの感じたことを話すことにより、地球環境を守るという大きな流れみたいなものができれば、それは行かない人にとっても大きな恩恵であるわけです。宇宙旅行は宇宙に行く人だけのためではなくて、違うパワーとそこに留まらない魅力を持っていると思います。

的川 ありがとうございます。
 私は、かなり強硬な有人派ですけれども、今はそういう立場で話してはおりません。いろいろな人と話すときに、よく宇宙に行って人は変わる、変わらないという議論があるのです。宇宙観光旅行という「観光」の2文字を使うからいけないといわれることもありますが・・・
 橋本さん、この点いかがですか。

橋本 1969年アポロが月に行って、丸い地球を全世界にライブで放送した。あの時点から、ある意味、地球は丸い、こんな小さな天体だということが、後世それが当たり前になったわけです。私は、長いスパンで見て、人間の意識を相当強く変える要素になったのではないかなと思っています。
 先ほど山根先生のほうから、宇宙旅行に投資すること自体、夢に投資することであり、それは文化なのだから国費の投入があってしかるべきだとのご発言がありました。全く同感です。それと、私は、先ほどの講演で産業と申しましたけれども、宇宙旅行というのは、これからの非常に有望な産業ではないかと考えています。FAAは、2021年くらいで3千億円くらいの産業規模になると予測していますけれども、これが、急速に伸びてやがては1兆円産業になると思われます。アメリカだけではなく世界的にも有望産業と見られていますから、日本にとっても有望な産業であれば、これは産業振興の立場から日本政府のお金が投じられて当然でしょう。宇宙旅行も含め旅行産業は第3次産業ですね。それはJTBさんの世界、クラブツーリズムさんだけの世界ではなくて、航空会社も含む世界です。この第3次産業は、モノづくりの第2次産業にも大きな恩恵をもたらす産業ですから、宇宙旅行というのは、第2次産業、第3次産業、両方とも満たされる立派な産業ではないかと私は感じております。そこにもっと政府は着目すべきだろうなと思います。
的川 その場合、政府が科学技術予算を投じるときに、どこか別のところを削減し我慢させてでも、宇宙旅行分野に大いに投じるべきであるという結論になるわけですね。

橋本 基本的に、この分野は、アメリカがそうであるように、民間の投資を大いに期待すべきなのです。日本が今まで有人宇宙に対して非常に尻込みしてきた背景には、まずコストの問題、先ほど大島さんからご指摘ありました何兆円もかかるだろうという心配がありました。それにしては、あまりにもリスクが高いじゃないかと心配し、日本人のメンタリティとして、人が死ぬかも知れないようなことに何兆円も投じられないよという議論があるわけです。しかしながら、宇宙旅行でも弾道飛行までであれば、リスクも技術的ハードルもそれほど高くありません。ですから、そこに民間投資を入れることを推進すべきでしょう。私は日本でも弾道飛行までは民間投資でもかなりの部分できると思っています。そこに国のある程度の補助があれば十分に可能ではないか。先ほど言いましたけれど、現実に、イギリスの試みであるスターチェイサーには、公的機関であるESA、欧州宇宙機関から補助が出ています。
 日本では、ライブドア事件で不幸なことになってしまいましたけれども、堀江さんは宇宙旅行に対する民間投資に思いが至った人でした。ある起業家がいて、それに民間投資家がいて、スキームがよければ国がそれに対して援助をすることで、さして大きな資金を使わずに弾道飛行までは十分にいけるのではないかと私は考えています。さらに、その先では、立派な産業に育っていくのではないかと期待している訳です。

的川 政府は、今までのところ有人戦略というのを前面には出していないですね。宇宙基本法などいろいろな制約もあります。そういうなかで、有人宇宙の戦略を前面に出して、弾道飛行でいいから国がそれに援助をする。でも、それ以上に民間の投資が重要だとおっしゃっているわけですね。
 会場のご意見はどうでしょうか。

コリンズ 麻布大学のコリンズです。日本は特に、弾道飛行で始めればいいのではないですか。なぜかというと、弾道飛行は簡単であり、必要資金は少なくて済むからです。みんな知っているでしょう。スペースシップ・ワンは30億円、それはJAXAの年間予算のわずか3日間くらいにしか相当しない。それを商業用にするために、ヴァージンギャラクティック社は10倍くらいの資金をかけている。2、3百億円と考えられていますけれど、それでもJAXA年間予算の1カ月分にしかならない。ところが、世界中の宇宙局は、実際、宇宙旅行拒否局です。宇宙旅行以外の分野には資金をたくさん使いますけれど、宇宙旅行には全く出さない。NASAでも、ESAでも、JAXAでも。ESAは、最近1千万円を出して、1つの小さい会社を作りましたけれども、全体としてみれば、基本的に経済の観点でおかしいです。このサービス(宇宙旅行の弾道飛行)については非常に大きい需要があるのですから、政府が経済を活性化するために投資するのがいいと思います。
 ところで、志村さんに質問いいですか。ゲーリックさんのデータを見ていまして、ゲーリックさんの意見は宇宙旅行の大半の研究者とは違うのです。彼は、20年後の弾道飛行の値段は1人500万円になると言っていますけれども、ほとんどの研究者は、あと10年後には1人50万円になると言っています。なぜかというと、飛行機の切符の値段は、1人分の燃料の3倍くらい。これがひとつ。そして、もうひとつは弾道飛行が簡単なことです。燃料は軌道飛行の100分の1。再突入も激しくないから、飛行機みたいになる。だから、あと10年もすれば50万円にまで運賃は下がる。

会場から それは放っておいても10分の1になるというころですか。

会場から 誰かが実践をして、何か努力しないと、到底ならないでしょ。

コリンズ そうですけれど、最初に弾道飛行で始まれば、あとは簡単です。

的川 分かりました。
 日本では、宇宙開発委員会が長期戦略策定ということで作業が始まっており、その際、国家戦略として有人をどのように位置づけていくかが、きっと、非常に大きな問題になっていくと思うのです。国の関わり方について少し議論したいと思います。
 小川さん、かなり具体的に実験もされて、これからどういうふうにやろうかという志もおありだと思うのですが、国に「こういうふうにして欲しい」という要求があればお願いします。

小川 「投資してほしい」の一言です。需要があるというのは、皆さん、「宇宙に行ってみたい」の質問項目に大勢お手を挙げられたことで明白です。需要があるのにやらないという理由が僕からは分からない。投資しないというのが僕の理解できないところです。国に対しては、需要があるのに拒否することはやめて欲しいと声を大にして言いたい。需要にはきちんと投資をしてもらいたいというのが僕の思いです。幼稚な発言で申し訳ないですけれども。

的川 ただ、需要といっても、ここにいらっしゃる方は、宇宙旅行や宇宙開発に興味のある方ばかりがいらっしゃっているのだけれど、国民全体として果たしてどれくらいのものがあるかというのは、数字には、まだ出ていないのかもしれませんね。有人宇宙を全面的にワーッとやるというのではなくて、今までの議論のなかで、国がそういう姿勢を示して、できることから少しずつお金を付けていくというのでもいいのではないかという発言があったわけです。そういう意味では、先ほどの再使用ロケットについて、これくらいの年限で、これくらいのお金が投資されれば、合成写真にあったようなものに近づくというような具体的要求、つまり予算要求みたいなものはないですか。

小川 有人に向けての予算要求は、実際、僕らは組織の中にいる人間なので、やっていませんけれども、これこれこういうふうにしていけば再使用が可能なロケットが、5年以内にできて、その次は何年以内にこれこれができて・・・という構想を持っており、予算も算出して、しかるべきところには出してはいるのですが。なかなかお認めは・・・・。

的川 その総額はどれだけですか。ここでは言えない?

小川 言えません。

的川 そうですか。日本ではそういう戦略づくりの準備を、いずれやらなければいけない。小さな話ではないですね。

国産機の議論と中国にみる宇宙開発の目的

的川 さて、高野さん、宇宙パイロットの養成を発表されたわけですけれども、例えば、日本とアメリカのパイロット事情というのはどれくらい違うのでしょうか。基礎データとしては、飛行機を操縦できる人の数が日本とアメリカでどれくらい違うのでしょうか。

高野 全く母数が違うのです。アメリカは80万人くらいですし、日本は全部合わせても8千人くらいかと思います。ある意味で、日本は航空小国という感じがいたします。

的川 そうすると、宇宙パイロット養成というのも両国間で母数が違うことによる難しさがあるのかもしれません。
 高野さんが最後におっしゃった松坂の話ですけれども、日本人はスポーツが大変好きな国民です。私がロケットなんかとの違いを感じるのは、スポーツとの報道を比較したときです。例えば、オリンピックがまさしくそうですけれども、オリンピックで金メダル最右翼と期待されていた人が銅メダルだった場合をみますと、当人に強いバッシングがいくかというと、意外やそうではなくて、メダルを取るに至った過程でのいろいろな苦労話がテレビ、新聞で紹介されて、よく頑張ったと拍手を送るわけです。ところが、ロケットの場合は、失敗すると絶対そういう優しい扱いがなくて、ものすごく苦労させられるわけですよね。マスコミが喜ぶいい話も、しようと思えばいくらでもありますけれど、聞いてこないですし、スポーツのように努力を称えるというところにはまずいかない。高野さんがおっしゃったような形で、ロケットにもスポーツと同じような評価基準というのですか、そういうものを設けてもらえると、人を感動させるすばらしい話はいっぱいあるはずなのですね。
 そういうふうになるのは、何がどう違うのでしょう。山根さん、どうお考えですか。

山根 北朝鮮では、オリンピックに金メダルを取れないで帰ると、強制重労働が待っているとかいう話があります。ことほど左様に、文化というのは時代を経て成熟していくものなのだけれども、こと日本のロケットの分野に関しては、科学技術レベルの話ではなくて、文化として極めて遅れているということではないでしょうか。文化の代表であるべき新聞が、例えば、ここ会場に新聞の方がいらっしゃっているけれど、ちょっと失敗すると、すぐ叩く。ロケットが一回落ちたりするくらいで、もうこれで日本の宇宙開発は終わりだと必ず悲観的に書きまくりますよね。「よくやった、次回に頑張ってくれ」とは決して書きません。宇宙に人間が出ていくことの意義を認め、国民の考えを変えるためにも、新聞はスポーツ報道のような姿勢を押し進めるべきだと思うのです。
 私ばかりしゃべるのはいけませんが、あと1分。きょうのテーマは「旅行」なのですよね。宇宙旅行シンポジウムですよね。宇宙飛行体験シンポジウムではないですよね。いま言われている宇宙旅行というのは、出発すると、すぐ帰ってきちゃうのですね。あれはあまり楽しくないのではないかと思う。窓外をみると、真っ暗だけれども、宇宙はすごかったと言わないといけないと思い込んでいるから、帰ってきて「すごかった」と言っているのかなとか僕は勘ぐっているのですよ。意外と退屈かもしれないんですね。ところが、アメリカで4万人もの人が宇宙旅行に申し込んでいるというから、これはすごい。
 僕は、無重力体験をやったことがあります。そのとき、自分の身体が浮いたことにはちっとも感動しなかったのです。不思議ですよね。20秒くらい、3回くらい浮いたのですけれど、プールで浮いているのと同じだなと思った程度です。感動したのは、浮いたことではなくて、実はGがかかった体験でした。身体がグワーッと上り、2Gがかかってくると、指の先まで、体験したことのない重みというか、これまで経験したことのない感覚を覚えました。「これだッ、きたッ」という感じでしたね。あれはまた味わいたい。自分が何Gまでいけるかも見極めたいですし。

 もうひとつ。旅行シンポジウムというのに、乗り物の話だけしかしていない。何分間、乗り物に乗るかという話しかしていない。けれども、旅行というのは、雑誌「るるぶ」でみるまでもなく、見る、食べる、遊ぶ、泊まる、のいろいろな要素から成り立っている。そういうこと全部が旅行であるはずです。月にANAホテルとかJALホテルとかができてくれなくては困るわけです。そこには月レストランがあって、月土産店舗があって、月の石で作ったブローチとかを売っていたりする。そういうことを考えていくと、もし、日本が乗り物を造れないのなら、アメリカ製で行けばいい。そのかわり、私たち日本人は来たお客を全部受け入れて、例えば、1泊500万円で泊めてあげますよとやる。それをどうやって造るかといえば、日本は自分では行けないですけれども、ロボット技術があるのですから、遠隔ロボットで、土木技術を総動員して全部遠隔で月にANAホテルとJALホテルを造っちゃう。1時間しか滞在しない人たちでも楽しめる遊び場を造る。月すべり台とかもね。すべり台だって、1回すべったら150万円ですからね。そういう観光設備を造ることも日本の宇宙産業、宇宙旅行ビジネスとして成り立つはずだと僕は思うのですけれど。
 せっかく、この会場にJALの方とANAの方が両方、関係者がいらっしゃるので、この際ですから、ひとつ、JALとANAで10年後に500万円の宇宙旅行というのを、ホテルまでを含めて両方でシナリオ競争して、それを発表して、「皆さん、さあ、どちらに行きますか」という営業合戦をしてみたらどうでしょうか。それぞれ技術者とか宇宙関係者も付いて徹底的にシナリオを作ってみる。例えば、それをテレビ番組でやるとかね。そういうことを少しやって楽しんでみたらどうかな。そうすると、「ロケットがこれじゃあ、ダメだ。重工さん、こう変えてよ」などという話も出てくるかもしれません。なにせ大量に飛べるロケットが必要です。500人が一遍に乗れるロケットというのはどうやったら可能かということから真剣に考え始めることになるかも。そうすると、先ほど話題になった50万円で弾道飛行だけではなくて、月まで行けるようになるかもしれません。

的川 山根さんのご発言に、輸送機は外国でもいいじゃないかという話もありますね。日本国の考え方として、人間が宇宙に行くということにかたくなに反対しているわけではない。確かに日本には宇宙飛行士もいますし。ただこれまで、人もモノもすべて外国製ロケットで運んでいただいているという立場なので、全面的に日本独自の技術として有人宇宙輸送というのが開花できるかどうかですね。今後は、そこにかなり大きな投資をしなければいけないという話もありますから。
 この点について、アメリカのことをよく調べていらっしゃる大貫さんや橋本さん、輸送の部分をどう感じられているかをお聞きしたいのですけれども。

橋本 輸送手段は非常に重要です。例の国際宇宙ステーションで、欧州宇宙機関ESAと並んで、わが国はアメリカに対して、「きぼう」という名のモジュールを加えるということで6千億円ないし1兆円という多大な貢献をしています。しかしながら、ここで得た教訓として、アメリカ一国に依存することがいかに危険かということを大きく学んだわけですね。コロンビアなど2度の失敗で、もう宇宙飛行士を送ることすらできなくなって、結局はソユーズに頼らざるを得なくなったわけですから。我々が得た教訓は、国が独自に人間を輸送する手段を保有しなくてはいけないということではないでしょうか。中国は、早い段階でそこを認識し、既に独自の輸送手段を獲得しました。たぶん、ヨーロッパも部分的な実験をしていますから、あと10年、20年後を目標にして、どうも同じことを考えていますよね。インドも同様で、既に再突入実験などを行っています。10年、20年後には、各国が輸送手段を持つことが当たり前になるので、日本も当然、独自の輸送手段を持つべきだろうと私は思っております。

的川 宇宙活動の日本としての自在性というか、そういうものを保障するためにも。

橋本 そうです。国威発揚などという視点とは関係なく、国の基本的な応用問題として有人輸送技術を持つというのは、国として当たり前の時代が必ず来ると思います。

的川 そうすると、山根さんがおっしゃったような、月に行こう、火星に行こうという話のときには、自国の輸送機があれば自分で自由に計画を立てられるということですね。

橋本 そういうことになります。
 もう1点、よろしいですか。宇宙に行くための、月に行くための輸送機を開発するということに、明確な動機づけが必要であるということです。先ほど、私は先ほどの一般講演で別の話題に時間をかけ過ぎたのですけれども、中国の嫦娥月探査計画について補足します。中国の嫦娥月探査計画は最終的には、月の資源取得を目途とすると明示しているわけです。月にはウランもあるし、ヘリウム3という核融合の燃料もあり、資源という点でものすごく魅力的です。これには、国連決議で、月の資源は公平に分配よという国際法、宇宙法条約があるのですけれど、実は付帯条項があって、「ただし、月探査に貢献した国は特別な配慮が払われる」と書かれてあるのです。中国は当然、それを視野に入れて、主体的に月資源を狙うのだと公言しているわけです。いずれは、月の資源を目途としたプラント群、精製工場が建って、そこに当然、ビジネスが成立し、人の往き来も生じます。そうすると、ここからは私の願望ですけれども、航空会社ならぬ宇宙会社が、ビジネスクラスをもって月に定期便を運航するようになる。もちろん観光需要客もいるでしょう。当然、ホテルもできて、ビジネスホテルかもしれませんけれども、普通のホテルもできるでしょう。こうして、月面には産業とビジネスがあり、観光ディスティネーションもあるという時代になるのではないでしょうか。日本がこの流れに乗り遅れないことを私は個人的に願っています。

民間資金を吸い上げるアメリカ方式

大貫 私の本日の役割分担は、アメリカとか諸外国の紹介ということだったのですけれども、本当は自分のプレゼンテーションの前に、宇宙に行くときは、個人的には、日本製のロケットなりスペースプレーン支持派だと、ひとつお断りをしたかった。
 私はスペース・フロンティア・ファンデーション(SFF)・アジアリエゾンとして宇宙旅行の販売もしているのですけれども、私が日本製ロケットで行きたいだけではなくて、市場の声として、日本の方は、やはり国産ロケットで行きたい、スペースプレーンで行きたいという希望が大きいと感じます。実際のところJTBさんがそういったデータをお持ちだと思います。市場にそういう声がある限りは、国産の方向に進むというのもひとつだと思います。
 先ほど、目白押しの巨大プロジェクトのなかから、他の科学予算を押し分けてまでも有人宇宙機開発に予算を持ってくるというお話がありましたけれども、資金調達には国家予算以外にも投資家に働きかけるとか、多様な方法はあると思うのです。宇宙旅行は明らかに民間の活動だと思いますので、民間資金をどこまで引き出せるかというのがひとつのポイントだと思います。だからと言って、全く政府予算を当てにしないというわけではありません。政府の予算は必要なのです。先ほどアメリカを紹介したプレゼンテーションで触れましたように、アメリカでは宇宙旅行ですとか宇宙機の開発ですとかは、民間活動ではあるのですけれども、政府も出すというシステムをとっています。ただ、NASAのCOTS賞を取ったから開発費全額を政府で出してあげましょう、さあ、開発してくださいというのではなくて、例えば、国であるNASAが1ドル出したことによって、民間は2ドル調達しなければいけないというシステムをとっており、その上で、COTSのようなプログラムが成り立っているのです。そうした市場の投資を引き出すような魅力的な仕組みが日本にもできればいいのでは。

的川 民間の資金はどのように引き出すのですか。やりたい人の力次第ですかね。

大貫 開発する人(やりたい人)の熱意が投資家の琴線に触れるような何か、というのが必要でしょう。民間も自助努力はするのですが、それを引き出すような、誘発するような国の仕組みがアメリカにはあるのです。

的川 日本の話題に戻ります。宇宙旅行、宇宙観光旅行、いろいろ語られるのだけれど、「よし、じゃあ、俺がやる」という動きが私には少ないように見えるのです。「誰か、やってくれるといいな」という人頼みの感じは広くあるのですが。悩みはいつもそこにあるのですけれど。フォン・ブラウンのように「俺がやる」という人はなかなか出てこない。

出でよ、日本のフォン・ブラウン

橋本 私は良く新聞記者の方と話す機会があるのですけれども、日本ではJAXAの中にこそ、フォン・ブラウンが現れるべきだというのです。要するに、JAXAさんの中には自発性とか内発性が乏しくて、多少のリスクを冒してでも全体を引っ張っていってやるのだという人間が出てこないということをよく聞くのです。
 それと、もうひとつ。先ほど日本ではロケットが一回失敗しただけで、どうしてマスコミが、ああも叩くのだろうという発言がありますけれど、これは日本の文化風土かもしれません。しかし、JAXAさんにぜひお願いしたいのは、ロケットが失敗したときに、ひたすら謝るのは止めて頂きたい。特に、H−Uのときには謝りすぎだと思います。比較的謝らないのがISASのほうで。「のぞみ」はH−Uの基準でいえば失敗ですけれど、ISASは謝ってはいないのではないでしょうか。「残念だ」とはおっしゃったけれども、謝ってはいらっしゃらないですね。あれは、私は、全くそれでよろしいかと思います。

的川 大島さん、今の点、橋本さんの発言された点について、どう思われますか。

大島 私は、失敗しても、「やめちゃえ」とは書いたことはないことを、まず最初に言っておきたいのですが。ただ今のご意見に、私は逆のことを言いたい。税金を投入したロケット1基、百数十億円のものが、失敗ですべて無駄になったと私個人は思っていませんけれども、目的を達しなかったということについては、むしろ、もっと謝ってほしいと思います。担当の方には真摯に受け止めてほしいとい言いたい。記者会見などで事情説明を受けたときに、「この人たちは本当に失敗したのを悪いと思っているのかな」といった印象を受けることが事実あるのです。それがその後のマスコミ報道のトーンというのですか、厳しさに反映されていくのではないかなと感じているので、先ほどの、反論みたいですみませんけれども。
 私自身は、さきほども言ったように、「やめちゃえ」と書いたことはないですし、署名記事では、私自身の思いも込めて、科学技術には失敗はつきものであるという趣旨は必ず入れるようにしております。ただ、やはり、国のお金、百数十億円を使ったという自覚だけはしっかり持っていてほしいと願っています。

的川 謝ってほしいのではないのですよね。微妙な問題ですね。
 はい、山根さん、どうぞ。

山根 「税金を使って失敗したという自覚を持ってほしい」とおっしゃったのですけれど、失敗した後に、担当者にお目にかかってお話を伺ってみると、凄まじいまでの自覚を持っているがために、逆に、どんどん元気と前向きな姿勢がなくなってしまうように思います。マスコミで皆さんが謝っているように見えないのは、たぶん、工学系の人たちというのは、あまりうまくしゃべれないからではないかと思うのです。本当に現場の方たちは大ショックを受けて、その上、当然降りかかってくる、メディアだけではない、国会とか議員さんとか、そういうことまでが頭を駆け巡って、もうできなくなるのではないかという責任感で一杯になっている。これを目の当たりにして、僕は実に痛い思いをするのですけれど、そこに追い打ちをかける報道記事が出るというのは本当にかわいそうです。ですから、失敗で落ちたとか爆発したとかいうと、僕は週刊誌で必ず「頑張れ」と書くのです。でも、それに対して、「おまえはおかしい」と言われたことも一回もないのですね。もっとも「よく言った」ということも一回もない。

大島 「税金投入と失敗の自覚が足りない」というふうに私が感じたのは、もちろん全員ではありません。担当者全員に自覚がないなどというつもりは全くないので、誤解のないようにお願いします。
的川 自覚不足の人がいるということですかね。
 今のような議論からすると、もし、日本で現実に有人ミッションが始まると、これは無人の比ではないですよね。命が一人失われたというと、必ず「やめてしまえ」という話になっていくのでしょうね。スポーツで見られるような、長い目で育てていこうという思想が本当にみんなの心根の中にしっかりと生きていないと、宇宙開発なんていう長い道程のものは、きっとできていかないだろうという気がします。この会場では有人飛行をサポートしてくださる方が多いわけですけれど、そういうことが土壌として日本の中に今後長い間にわたって根づいていかないとダメだろう、これは宇宙開発全般にわたる話ですけれど。
 そこで、我々が「はやぶさ」で得た教訓があります。大島さんも一緒に、幾夜も眠い目をこすりながらお付き合いいただいたわけです。つまり、すばらしいミッションをやるというのが大事で、ミッションそのものの志の高さとか、挑戦の素晴らしさというものが宇宙開発の中にもっともっと出てこないと支持者も広がらないという感触を持ちましたね。「はやぶさ」の場合は、皆さん大変だったですよね。失敗だと思ったら成功だったり、その逆のことがあったり、いろいろなことが繰り返し繰り返し、七転び八起きで起きました。けれども、新聞記者の方は、とにかく、ずっと泊まりがけで懸命に取材してくださった。あの時の取材態勢は素晴らしく、大変ありがたかったです。うまくいかなかったようなことを我々が説明しても、それを正確に記事にするという姿勢であり、そうではないものもあるにはありましたけれど、基本的にそういう態度で接していただいたのは素晴らしかった。そうした無人のミッションでも、いろいろやっていくということが有人の基礎を作るだろうと思うのです。

有人こそ日本の「宇宙開発の長期計画」あるべき姿

的川 ところで、宇宙開発委員会が2008年から10年間にわたって日本が取組むべき「宇宙開発の長期計画」を策定しているのですが、アメリカがスペースエクスプロレーション計画をブッシュの政策として出したこととも大変関係がありますけれども、日本でも21世紀には「探査」を前面に出していく時代がこれから始まると思うのですね。日本はロボット技術が非常に進歩しているから、もし予算のパイが限られているのであれば、どこの国もできないような完璧なミッションを無人でやっていくことが、日本の宇宙開発の生き方ではないかという意見はかなり広範に存在しているわけです。無人の高い技術を持てば、それは有人に必ずプラスになります。いずれは有人をやるのだけれど、段階的なものとして、今は無人探査に重点を置くべきだという意見も、かなり根強いところがあります。
 こういうことに関してご意見をいただければと思うのですけれど。無人か有人かという議論ではなくて、現在は無人に論議を絞るべきではないかという意見について、どなたか・・・・高野さん、いかがですか。

高野 切り口というか、テーマがちょっと難しいのですが。宇宙開発では、有人なるがゆえに信頼性が上がるとか、有人を考えるからこそ、いろいろな意味で技術が向上し、無人である程度精度を上げていこうとする場合よりも、有人ということを前提に考えていったほうが全体に精度が上がるのではなかろうか、と思います。そういう切り口というか考え方で、私は宇宙輸送研究会に参加したという経緯があります。確かに、ロボット技術を使えば、無人でかなりのことができるのだけれども、有人なるがゆえに信頼性を上げ、あるいは作業の精度を上げていかなければならない側面がある。そのためにこそ有人を目指すのだと、そんなふうに考えておりますが。

的川 有人を目標にすれば信頼性の上げ方についても、非常に効率もいいし、必ずそれは達成しなければいけませんからね。そういう方向のご意見がひとつあります。
 志村さんは、いかがですか。

志村 有人、無人、どちらとも素晴らしいことだとは思いますけれども、個人的な気持ちでいえば、宇宙に携わっていて一番やりたいのは、普通の人がもっともっと宇宙に関心を持って、気楽に宇宙の話ができることです。先ほど文化の話が出ましたけれども、宇宙が文化にまでなっていって欲しいという気持ちでいますので、そういう意味からいうと、弾道でもいいですし、普通の人でも月に行けるような有人宇宙のほうに個人的な興味を抱いています。会場の方のご意見を、ぜひ、聞いてみたいと思うのですけれども。

的川 「みんなで行こうじゃないか」というムードですよね。
 会場の皆さん、いかがでしょうか。では、そちらの方。

浅川 日本でヴァージンギャラクティック社の紹介、販売をしておりますクラブツーリズム株式会社、事業開発部長の浅川と申します。
 ぜひ、皆さんのご意見をお伺いしたいのですけれど、スペースポートを日本で、ぜひ早く実現して欲しいということです。飛行機の機体開発では現実にそうなっているのですけれども、宇宙でも機体は、日本で国産開発はもう難しいと思うのですね。航空会社も全部、ボーイング社とかエアバス社で日本航空さんも全日空さんも運航されていますよね。であれば、宇宙機も外国の機体でいいのではないでしょうか。宇宙機は、ヴァージンもイギリスでも飛ばす、オーストラリアでも飛ばす、スウェーデンなどでもいろいろなところでやろうとしており、アメリカだけで飛ばそうとしているわけではありませんので、日本ではスペースポートがありさえすれば、一番安全な機体を持ってきてサービスを提供することができます。そうすれば、日本で宇宙旅行が本当に発展するのではないのかなというふうに思っておりまして。
 さきほどのご講演でご紹介あったように、アメリカで2008年に、各社が民間宇宙を本当に始めちゃいますので、どこが一番安全なのか、どこが安いのか、どんどん決まってきます。そうすると、あとは、日本ではそれが出発する空港の実現待ちという、インフラだけの問題になってくるのではないかと思っているのです。そのへんの情報があれば、ぜひ、教えていただきたいと思います。

的川 今回のご意見はさきほどの意見と反対ではなかったかと思います。ヴァージンギャラクティックの立場からは、そういうことになりますかね。
 会場からもうお一方・・・・はい、どうぞ。

会場から 私は、某旅行会社系でイベントのほうをずっとやっている者です。
 旅行商品というのは、つまるところデスティネーションなのですね。ですから、旅行代理店では、常に新しいデスティネーションを探しているというのがひとつあると思います。そのデスティネーションに、いったいどれだけいいアトラクション、体験があるかが商品を決定します。そういう意味では、たぶん、弾道飛行というのは、僕は、山根先生にお聞きしたいのですが、弾道飛行は、旅行というよりも、ひとつのアトラクションかなと思うのです。だから、擬似体験みたいなものがあれば、それが非常に安全です。危険がつきまとう旅行というのは、例えばテロの情報などがでまわれば、ひとはすぐ旅行へ行かなくなるので、基本的には安全がきちっと確保されているということが大前提だと思うのです。
 もうひとつ、宇宙旅行というのが宇宙産業のひとつのシーズの出口、アプリケーションの出口だと思うのです。1970年代に400人乗りで、航空運賃を大幅に引き下げたジャンボが登場しました。大量高速輸送時代をつくったジャンボのああいう飛行技術がきちっとできて安全性が確保されたときに、大衆はみんなそれを選択したんだと思うのです。ジャンボと同じようにして、宇宙に行くということが大衆化するかどうかは分からないですが。ただ、有人ということが、いわゆる産業面というか、R&Dの面か分かりませんが、それが担保されたときに、ひとつの応用の出口として、アプリケーションというか、そっちの出口として宇宙旅行というのができていくというのではないかと僕は考えています。旅行というものを目的にして宇宙を開発するというのは、おそらく、なかなか大変なのではないかなというふうに、お話を聞いて印象を持ちました。

的川 他に・・・はい、どうぞ。

伊藤 北海道で宇宙のことを多少やって(北海道大学名誉教授)、政府とは関係なしにロケット開発とか何かをやっているHASTIC専務理事の伊藤でございます。ただ今、スペースポートのお話と、デスティネーションのお話がありましたので、ご参考になればと、ひとつお話します。
 ご承知のように、北海道の大樹町というところが、20年前からスペースポート構想を持っていまして、私どもは、それを実現するために、アクティビティを続けております。それは、かつての青写真をバージョンアップし、現在の有人飛行に合うようなスペースポートにつくり替えようといろいろ活動しています。日本で民間のスペースポートができるとすれば、最初に、十勝圏といっていいと思います。ぜひ、我々北海道を応援していただければ大変ありがたいというふうに思っております。
 デスティネーションの話が出ましたけれども、私どものところではロケットプレーン社と技術提携をしていまして、2008年にそれが始まりますと、いろいろな意味で協力体制をとるわけです。そういう中で、できるだけ早い時期にロケットプレーンを日本に持ってこようと思っております。日本に持ってくる予定を、一番早くて2012年というふうに考えておりまして、2012年に大樹町の飛行場からロケットプレーンXPを飛ばすことをひとつの目標に掲げております。その以前にも、アメリカでロケットプレーンの営業運航が始まりましたら、できるだけ早い時期に、大樹町にロケットプレーンXPを持ってきまして、日本初の100kmサブオービタル有人飛行をやろうという計画を立てております。それはデモフライトですので、大樹町から発射して、国内の他地点に着地させたい。日本には、拾ってみますと過疎空港がたくさんあるのですね。何とか人が来てくれないかという空港がたくさんあります。関西のどこかに降りますと、北海道に来て、短時間で関西旅行、京都見物をして帰るというような外人向けのツアーが組めるのです。それをロケットプレーン社に申し入れをしたいと思っています。日本国内でのサブオービタル経由の2地点間デモフライトを、ぜひ、実現したいと思っています。ロケットプレーン社はこれをハワイで実行する計画ですので、皆様方、ハワイに2009年か10年頃に行きますと、オワフ島からハワイ島とか、そういうところの2地点間で、100km上空経由で行けるということになります。それが将来的には、日本=アメリカ間を宇宙空間経由で2時間くらいで行けるようになります。それこそ、糸川先生が30分で行くと最初に予言されたような夢が実現する、ひとつの最初のステップになるのではないかなと思っております。ご参考になればということで申し上げました。
 日本でもある意味で、国産機ではないし日本のシステムでもないですけれども、有人宇宙飛行の扉を着々と開けつつある、そういうふうな感じでやっております。よろしくお願いいたします。

的川 会場で2、3人、手が挙がっていますが、時間が押していますので申し訳ないです。
 2年前のこの第1回シンポジウムと比べると、日本では糸川先生が、ごく普通に宇宙への夢が語られる時代が必ず来る、と予言者のように言っていらしたのが、現実になってきたですね。志村さんが提起された問題は、宇宙には飛行士が行くだけではなくて、普通の人が行くという時代がこないと、なかなか普遍化できないということだと思います。
 時間がきてしまいました。きょうの議論を踏まえて、大島さんから始めて、講師の皆さんから簡単にコメントをいただけないでしょうか。


がんばれ、日本!

大島 これまで、宇宙関係のイベントとか講演会とかいうのは結構派手で、タレントや有名人とか、宇宙飛行士がワーッと華やかに登場するような感じのものが結構多いという印象を持っていましたけれども、きょう、このシンポジウムに参加させていただいて、現場の技術者の方がこういう思いでいるということを改めて確認、認識することができました。
 一言、さきほども言いましたけれど、私は、科学技術に国の予算が多少必要であると常々考えていますので、である以上、有人宇宙には他の宇宙予算や科学技術予算から何がしら引っぱがしてくるような努力をしていただかないと、実現する方向にはなかなか向かわないのではないかなということも改めて感じた次第です。ありがとうございました。

志村 私は、一般講演の中でも申しましたように、やるからには是非日本製の機体で飛べるように取り組んでいきたいと思っています。究極的には、話題に出たように、宇宙もスポーツみたいに日本で支持されるようになって欲しいなと思っていまして、そのためには、メーカーだけが頑張ればいいわけではなくて、いろいろな方々と協調しながら盛り上げていくことが大事だと思っていますので、引き続き、よろしくお願いします。

小川 皆さんが誰でも宇宙へ行けるように頑張るというのが僕の基本的スタンスです。現在、実験機をやっている段階ですが、観測ロケットをやって、それから次に進み、皆さんが39万8千円で宇宙へ行けるようなロケットを作れるよう日々活動しています。2008年に、アメリカでは民間ロケットで宇宙旅行が実現するということで、日本はスタートが遅いと感じていまして、志村さんのおっしゃるように日本製ロケットを作るということを考えると、それが三菱重工だったり、ほかの会社だったりするにせよ、産業が活発化して、ビジネスになって、日本が儲かるというような話になるのであれば、国からもう少し投資を引き出したい。その投資は確実に回収できる話なのではないかと思っております。僕のやれることは案外少ないけれども、皆さんが乗って行けるようなロケット開発が僕の使命だと思っていますので、これからも、ぜひご支援、よろしくお願いします。

高野 「○○とパイロットは三日やったらやめられない」という言葉があるのですが、何を意味しているのか、現役時代から現在のOBになるまで何十年かずっと考えてきたのですけれども、パイロットという仕事は、ほかの職業に比べると、かなりエキサイティングだったなという感じがしています。今さらに、宇宙とか、また別な未知の世界というか、そのエキサイティングさにあこがれているところです。こういう未知にあこがれるというのは、本能的に我々人類にあるような気がしますけれども。
 私は生まれてからこの方、生涯お金を出して飛行機に乗ったことがなくて、それでいてエキサイティングな仕事をさせていただいたわけですが、今後は宇宙にもタダで行けるという時代がきそうです。そういうことを、若い後輩に、これから宇宙を目指していこうよと、宇宙の一路をつくるための啓蒙を続けていきたいというふうに思っております。

橋本 エキサイティングという言葉が出ましたけれども、私は、弾道飛行でも十分エキサイティングだろうと考えています。漆黒の宇宙があって、眼下には青い地球が、素晴らしい地球があるというのは、たとえ5分間の無重力状態でも、これは素晴らしい体験ではないでしょうか。弾道飛行には十分な需要が私はあると思います。
 先ほど、外国製ロケットでもいいじゃないかというお話も出ましたが、私は、やはり日本製の望みを棄ててはいけないと思います。宇宙機は今ならまだ間に合う。航空は、もうちょっと遅い・・・出遅れた分だけ、三菱重工さんはリージョナルジェット(MRJ)で苦労されています。ですから、宇宙機ではやはり、これから大いに頑張って、せめて弾道飛行宇宙機は民間活力を使って日本で実現してほしい。行政は、そのためにお膳立てをして「どうぞ」なんていうことは絶対にやってはくれませんので、有人ロケット研究会をはじめ起業精神にあふれた方が、どうか行政を動かして、その仕組み、法を含めた仕組みが作られるよう頑張ってください。
期待しています。

大貫 先ほどちょっと失敗しただけで大きく報道されてしまうというお話が出たのですけれども、宇宙開発をやっていて悲しいことだと思います。でも、宇宙開発の魅力ですとか、宇宙の魅力ですとか、そういうプロセスが一般の中に届いていないというか、伝わっていないような事実があるから、そういう現象になるということも一方であると思うのです。たまたま、宇宙旅行というのは身近に響く言葉ですし、行きたい人、行きたくない人にかかわらず、何か強い力を持っていると思いますので、宇宙旅行をきっかけに、先ほど志村さんからもお話がありましたように、もっと一般の人々に支持される宇宙開発というのを実現できたらいいなと考えています。
 私自身は、アメリカとの仕事を通じて、国内で有人宇宙にいまひとつ何か機運を起こしたいと思ってはいるのですけれども、国内で何かを起こすためにも、アメリカで今いろいろ湧き起こっているベンチャーの力を借りて、黒船的に日本国内でムーブメントを作るということも大切だと考えています。今後、そういうことにもっと注力できたらなというふうに思っています。


地球温暖化問題を解決し、子供に夢を与える宇宙開発

山根 「宇宙旅行、宇宙旅行」といいますけれど、どこの宇宙なのだということをもう少し考えたほうがいいと思いますね。国際宇宙ステーションが回っているところというのは、日本地図に置き換えれば、距離的には、地球からだいたい300キロくらいですから、考えたら、東京から名古屋へ行くくらいのものなのですよね。宇宙旅行の目的地には、国際宇宙ステーションのほかに月もあるし火星もある。きょうは火星の話が出ませんでしたが、的川先生は「火星なら行きたい」とおっしゃっているのですけれど、私も、火星へ片道でいいから行ってみたい。行って置いてきてくれて、5年後くらいに後に地球から迎えが来ると、南極のタロとジロみたいに私がボロボロになって出てきて「待っていました」みたいなことがあってもいいかなと。きっと、生きていないですが。片道でもいいから行きたいよと言っているのですけれど。
 もっと宇宙の果てまで行きたいという意見もありまして、スーパーカミオカンデで研究されていた小柴先生。小柴所長にニュートリノ研究で「どうして宇宙の素粒子の研究をされているのですか」と訊いたら、「それは、私が宇宙の果てへ行って、山根さん、こうだったよと言いたいから研究しているのだ」とおっしゃっていましたね。実際、アメリカでは、ワープして宇宙旅行する研究をやっている人、本当に真面目にやっている人たちがいて、可能だということまでおっしゃっている人もいるわけですよね。こんなわずかな物質が広島のあれだけの人たちを殺す原子爆弾を作ってしまった。科学技術というのはそういうものですよね。思いもかけない展開が待ち受けているかもしれませんが、ワープ宇宙旅行ということの研究くらいは、ぜひ日本が少しやってもらってもいいなと思うのですが。
 すごくいいことを思いついたのです。実は、きょうこの話が出たら、宇宙旅行なんかやっている場合ではないという話で終わるかなと心配していたのは、環境問題です。今、地球の温暖化で大変なことが起こっていて、毎年100兆円くらいの損害が出てくる。それに対して対策をやっていかなくてはいけない。少なくとも、10兆円くらいの投資をすることによって何とかなるのではないかという議論まで来ているときに、宇宙旅行なんかに出すような余裕の有る金なんかあるか・・・という話があるのです。けれど、これを使えばものすごく宇宙旅行が当たり前になるという決定的なことを思いついたのですね。それは、今、世界中で飛んでいる航空機が排出しているCO2の解決策です。航空機のCO2排出は莫大な量で、これを何とかしないと温暖化は止められないということがあります。そこで、すべての飛行機は大気圏を飛んではいけない。移動するときは全部宇宙に出てから回りなさいというふうにすれば、これは京都議定書の第一約束期間が2012年に終わりますよね。次の約束期間をどうするかというときに、世界条約で、航空機はできるだけ速やかに大気圏から出なさいと決める。そうすれば、いくら飛んでもいいことにする。そのために、CO2排出量の計算を急いでやって、宇宙航空機になればこれだけCO2が削減できるという事実を発表すれば、全世界が、きっと「それでいこう」となると思うのですね。そうすると、初めて正々堂々と、文化とか何とか言わなくても有人宇宙が進んでいくのではないかと思っております。ありがとうございました。

的川 ありがとうございました。いろいろなニュアンスの違いもあるけれども、対立点も含めて、はっきりしたことが出てきたかなと思います。第3回シンポジウムでは、もうちょっと進んだ議論ができそうな感じがいたします。
 私自身は、現在、もっとも力をいれて一番時間をとっている仕事が、一昨年に作った宇宙教育センターでの仕事です。その問題意識の中心には、端的にいえば、日本全体に夢とか活気とかが非常に少なくなってきたという危機感があります。
 そういうことも含めて、今年(2007年)8月に打ち上げる月の探査機「セレーネ」に、皆さんの名前とメッセージを募集しました。2月末で締め切ったのですけれども、全世界からの応募数が30万通を超えました。「はやぶさ」は88万通いったので、そこまではいっていないですけれども、でも、かなり善戦したかなと思っています。応募数が少なかった理由は、メッセージを募集したからだと思います。名前だけだったら、もっといったと思いますけれど。応募メッセージの中には、月に願いを託すというのがいろいろありましたけれども、日本全体に非常に楽しい、夢を語る場がもっとほしいというようなのも随分たくさんありました。宇宙というのは、ほかの分野に比べると、夢を作り上げていく貴重な分野だと思うのです。遺伝子で夢を語れといっても、なかなか難しいところがありますけれどもね。遺伝子を敵対視するわけではないですけれど、宇宙は、夢を語るのに非常に適当な素材を持ち、非常に適当な広がりを持っていると思うのです。今後、私自身は、宇宙を通じた夢づくりも含めて、子どもの活性化をやりたいと考えています。宇宙旅行という概念は、子供を活性化する過程の中の大変大切な部分だというふうに思っています。本日はいろいろご批判、ご意見もありましたけれども、それらを含めて、日本の子どもが夢を持ち、志を持って大人に育っていくよう宇宙教育を進めていきたいというふうに思っていますので、皆さんに全面的な協力を何とぞ、よろしくお願いしたいと思います。
 きょうは、長時間お付き合いいただきまして、ありがとうございました。日本ロケット協会と日本航空協会は、今後ともこうしたシンポジウムを続けてやっていただくと思うので、その際はまた、ご参加いただきたいと思います
 これでシンポジウムを終わります。ありがとうございました。

稲谷 的川さん、どうもありがとうございました。
 事務局の不手際で時間が超過しまして申し訳ありません。
 的川さんもおっしゃいましたが、次回については、また考えたいと思いますし、オリジナルなアクティビティを何かやるというようなことで皆さんにご紹介するというようなことも考えたいと思います。よろしくお願いします。
 本日はいろいろな議論が出て、新しい切り口もあったように思います。前回と同様に講演集を作る予定でおりますので、それが出来上がった折には、引き続き、皆さまからご注目いだきたいと思います。
 それでは、最後の締めは日本航空協会さんにお願いします。

榎本 (日本航空協会理事文化情報室長)皆さん、お疲れさまでございました。最後に、日本航空協会副会長の原貞夫から、ご挨拶させていただきます。

 (日本航空協会副会長)講師の皆様、それから的川先生、ご苦労さまでした。
 今からちょうど50年前の1957年、ご存じのように、スプートニク1号、スプートニク2号が軌道に投入されました。スプートニク2号にはライカ犬が搭乗していたわけですが、残念ながら、生還までは至らなかったわけです。先ほど、三菱重工の志村さんのお話がありましたけれども、マウスの実験をやるということですけれど、マウスはちゃんと生還させる構想ということで胸をなで下ろした次第です。
 最近、寂しいことですが、世界的な傾向として、若い人が航空宇宙の分野にあまり興味を示さないということを聞きました。ただ、本日ご来場の皆様を見ると、若い人も過半数に達しておりますので、私の心配はなくなったかと思います。
 ちょうど2年前、2005年3月の第1回目シンポジウムの際、私ども事務局が大変心配しましたのは、本当にお客様がいらっしゃっていただけるのかどうかということでございました。ただ、第1回目も、本会の第2回目も、大勢のお客様に来ていただきまして、大変ありがとうございました。これを踏まえて、先ほど、的川先生からお話がありましたように、第3回目のシンポジウムを近々計画しますが、本日のご議論を次回の企画に十分に反映して取り組みたいと思います。
 本日は、ご来場、大変ありがとうございました。

榎本 それでは、これで本日のシンポジウムを終了させていただきます。
 最後にお願いと、ご案内があります。最初に申し上げましたように、アンケートをお手元にお配りしておりますが、ぜひご記入いただいた上で、お帰りの際に受付にご提出いただきたいと思います。もうひとつ、ご案内です。冒頭に名刺交換会というようなことを申し上げましたが、時間もずいぶん迫っております。パネラーの先生方が壇上にご着席いただいていますので、この場で、ぜひ名刺交換をという方は短時間でお願いできればと思います。
 本日はお疲れさまでございました。ありがとうございました。

(完)
Copyright (c) 2008 Japan Aeronautic Association All Rights Reserved

since 2008/03/24