財団法人日本航空協会
航空と文化
 
 航空宇宙輸送研究会 顧問の久保園 晃氏からJAXA産学官連携シンポジウムに参加しての報告書が寄稿されましたので掲載します。宇宙開発の技術が技術移転(Spin Off)して、私たちの生活のさまざまな場面で役立てられています。宇宙技術が決して縁遠いものではないことを周知して、宇宙開発への理解を深めることが求められていると感じます。
航空宇宙輸送研究会 事務局
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JAXA産学官連携シンポジウム
「宇宙ビジネスの未来、新たな提言」に参加して」
航空宇宙輸送研究会 顧問 久保園 晃

今年初のJAXA小型観測衛星ロケットS-310打上げ予定日の1日前、そして陸域観測技術衛星(ALOS)「だいち」の打上げ2日前の1月17日(火)、13時から5時間に亙って六本木ヒルズ森ビル49階の大会議場でJAXA3回目の産学官連携シンポジウムが宇宙・非宇宙界約500名の熱気の聴衆のなかで標記のシンポジウムが行われた。そこはライブドア社が38階にあり、前夕から証券取引法違反の疑いで、家宅捜索を受けたビルである。しかもその堀江貴文社長(当時)が前半のパネル討論会のモデレータを務める予定のところ、当日朝、急遽JAXAが出席を断ったのであった。しかし参加定員500名の事前申込に 800名以上の応募があったくらい前評判の高かったものであった。
以下、参加者の一人として、配布資料のプログラムと各前刷資料に基づいてそれぞれの発表要旨を取り纏めた。今後の宇宙ビジネス民間参入とJAXA関与の姿勢と動きに注目したい。なおJAXAの宇宙開発委員会への報告はJAXAのホームページを参照されたい。
1.開会挨拶

  (JAXA  立川 敬二理事長)
 JAXAの活動を国民のご理解を得てその裾野を広げるには二通りある。;
一つはSpin Off(or Out)でこれには更に二つがある。:これまでのように打ち上げられた各種の衛星のいろいろな利用と、各衛星の開発技術の宇宙以外への活用でアポロ計画後普及されているもの。いま一つはSpin Inで民生技術・製品の宇宙への活用を行ってコストダウンや新しい機能等をもたらすもので投資家の参加が求められる。このためにはもっと多くの衛星を打ち上げたいと思っている。厳しい宇宙環境に曝されても耐えうる宇宙部品や材料等が期待される。本日のシンポジウムが産学官によるSpin Off /Inへの取り組みの契機としたい。

2.JAXA ビジネスインキュベーションプログラムのご案内

(JAXA  産学官連携部長 石塚 淳氏)
 先程の理事長ご挨拶には私の話の半分ほどが含まれていたと前置きして、宇宙産業市場規模、わが国宇宙予算の規模、宇宙機器産業の現状、宇宙マーケットの拡大と活性化のために何をすべきか?、「宇宙=研究開発」を「宇宙=ビジネス創出の場」へと発想の転機、産学官連携活動3つの方針(産業競争力の強化への貢献、宇宙開発利用の拡大、研究開発成果の活用促進)、産学官連携のイメージ、非宇宙分野から宇宙開発へのアプローチ(宇宙への敷居を下げる)、地域・中小企業との連携推進(全国の8例)、わが国のSpin Off事例〜宇宙技術を暮らし・生活の中へ〜(6例)、映像画像/商法利用など。プログラム紹介を終えた石塚氏は、産学官連携事業に関する総合窓口はお気軽にJAXA産学官連携部へどうぞ!と結んだ。本日で3回目の同題シンポで初めてJAXAは敷居を下げます!と宣言したことが新鮮であった。

3.パネル討論:「宇宙オープンラボ」〜バーチャル宇宙ビジネス研究所〜
モデレータ堀江氏の欠席で急遽、JAXA三輪田 真氏が代役となる。
モデレータ;三輪田 真氏(JAXA 産官学連携部 連携推進部グループ長):宇宙オープンラボの制度・内容・実績(28件)、本日受け付け開始、投資家登録資格を説明。
パネラー1;千代 和夫氏(松下電工株式会社 照明事業本部 LED・特品・新市場開発センター 新市場開発部 部長):LED照明の宇宙応用の可能性について―LED/発光ダイオードの特徴、LEDを使えば宇宙でこんなことも可能に、ISS向け生体リズムサポート照明を提案。
パネラー2;酒井 良次氏(サカセ・アドテック株式会社 AMC事業部長):宇宙インフレータブル構造ユニットの紹介―自然界においては収納状態からの展開・膨張硬化は日常的だと強調。
パネラー3;菅 雄三氏(広島工業大学 環境学部 環境情報学科 教授):Earth from the Space;地球観測衛星情報を活用したリアルタイム電子国土情報ビジネス―災害・環境・社会基盤情報・監視の分析と基盤整備の意思決定支援を行い国・地方自治体・企業・官(=JAXA)の連携が重要の自信に満ちた説明。
この後、パネラー間の討論。そして若田宇宙飛行士からの「それぞれ賛同、もっと日本伝統のもの造り、匠の名人をもっと宇宙へ!また日本の地球環境衛星はオープンにしてアジアに普及を」などのコメントがあった。

4.ポータルサービスにおける衛星画像への期待
 小澤 英昭氏(NTTレゾナント梶@ポータル事業本部 メディア事業部 担当部長)
 3000万件のWEBLOG情報から評判や良い書き手を自動分類・検索:「面白い」「好き」「凄い」などの感想を抽出、日常の生活に役立つ検索サービス=行動を支援するメディア、行動の支援メディアを高度化するための要素、地図サービスに対するgooの考え(位置に紐づく情報が検索可)、gooの衛星写真と電子地図を重ね合わせた地図サービス、ポータルから見た衛星写真への期待、ポータルサイト衛星センシング技術に対する期待を説明。小澤氏は、すべての日本人の生活に役立つ情報をもっと提供し続けたい、まずは近く打ち上げのALOS「だいち」からの衛星写真を利用したいと締めくくった。

5.先端技術による最新防災ソリューション
中島 務氏(三菱電機梶@IT宇宙システム推進本部 本部長)
 動画を用いてマウスポインターによるデモ・ビデオ(左右上下)、計測・測量・3次元地上図化で防災ソリューション(ハザードマップ、防災シミュレーション、災害規模の把握、避難誘導等)、地上、航空機、衛星によるさまざまな計測・測量・情報を統合する座標はGPS衛星、計測データの統合(移動体FKP測量、車両搭載型の3次元データ自動取得システム、航空レーザ計測、航空機合成開口レーダ計測、「みどりU」(ADEOS-U)が捉えた中国南部の洪水、自然災害の経緯と対応、災害発生時の観測と監視、観測・測位を説明。中島氏は、通信衛星への期待、通信衛星の期待を述べ、防災活動には正確な地図・地理情報が必須、位置・空間情報を統合して高精度3次元電子地図と空間情報データベースを提案。

6.宇宙と鉄道〜GPS Railway System
敷島 朝生氏(北海道旅客鉄道梶@鉄道事業本部 技術開発部 次世代車両開発プロジェクト 主査 )
 冒頭のExecutive Summaryに続き、鉄道から信号、標識が消えるとして、衛星測位活用技術の開発背景(JR北海道の鉄道路線網と輸送密度、衛星測位技術活用によるトレードオフの解消)、JR北海道の衛星測位活用システム(有珠山地盤変位監視システム、除雪車両運転操縦支援システム、DMV(Dual Mode Vehicle)、DMV〜線路と道路のシームレス運行管理、GPSの限界と準天頂衛星システム、次世代衛星測位システム導入の課題と期待)、鉄道システムインフラレス化のイメージの説明の後、特に地方鉄道の安定運営に寄与するシステムを動画を用いて強調。フロアーの井口宇宙開発委員会委員長から、「賛同するが、更に安心・安全第一とコストダウン化へと」のコメントあり。

7.浜松市・地域産業からの期待
秋山 雅弘氏(潟Aルモニコス 代表取締役 宇宙航空技術利活用研究会 代表幹事)
 アウトライン(地域産業振興、3次元デジタル技術及びアクセスイノベーションの三つの観点からの宇宙航空事業への期待について)の後、浜松市の紹介(県庁所在地・政令都市ではない、人口80万・南北約70Km/東西約30Kmの面積は日本二番目の都市)、工業都市から1次、2次、3次産業都市へ、宇宙航空技術利活用研究会設立(2005.2.8;2社で発足、代表幹事は発表者)、研究会の特徴と目的(双方向、地域の強い技術を宇宙航空へ、宇宙航空技術と産業を浜松へ)、1次+2次+3次産業=6次産業連携、アルモニコス社とは「1984年設立、3次元形状処理技術による製造業のデジタルイノベーションの支援、本社(アクトタワー)、東京オフィス(天王洲)」、日本経済を支える製造業のゴールは何か?(より良い価値と品質を持つ製品を、より早く、より安く市場に提供する。そのためには何をすべきか?)、エンジニアリングプロセスのデジタル化・3次元化、デジタルの3つの利点(大量データ、高速転送、次元変換)、3次元の8つの利点(形状把握、プレゼン、加工、製品検証、生産検証、画面、帳票、検査が出来ること)、もの造り産業と3次元デジダル技術(造船・宇宙航空・自動車・電気電子・工作機械の各産業間の双方的技術の利用と利活用が特徴)、技術・アクセス手段・産業の発展、3つのアクセスのバランス良い発達(面、線、点のアクセスから新航空輸送システムへ!)、新航空輸送システム技術組合(STOL,VTOL,4発ティルトウイング型S/VTOL,主な用途(多数!)、人工衛星による自動車走行情報の自動収集・分析システム(オーブコムとは? 車両走行データの活用、渋滞と渋滞損失、車両走行データとは?)について浜松ならでの取り組みが発表された。S/VTOLまでとは驚きだった!

8.総合パネル討論「宇宙・人類・日本・産業」―進化する産業のカタチ―
モデレータ;樋口 清司氏 (JAXA 理事)は前刷にある「欧米宇宙機器産業の売上先の比較(2003年)」「研究開発主体の宇宙開発から産学官連携による宇宙開発へ」および「宇宙ニューベンチャーの萌芽」のチャートの説明は省略してパネラーの発言となった。
パネラー1;水野 誠一氏から以下の主張があった。(潟Cンスティテュート・オブ・マーケティング・アーキテクチュア 代表取締役;元西武百貨店社長、元参議院議員):私は地球環境問題が起こってから初めて宇宙に関心を持った、この問題を地上でではなく宇宙から見た取り組みをしなければならないと思った、産学官の文字をそれぞれ丸い歯車で囲み、この三つの歯車を噛み合わしても絶対にうまく回らない!(スライド使用)、或いは政治・経済・社会の三つについても同じでそれぞれ動かない、この矛盾・コンフリクトについては私も以前、多少政治に関与したが、これら3者を回らせるためには、第4の歯車を3歯車の間にかませて回すとうまく働くということが判った。主題についても、この第4の歯車こそJAXAの存在と見ます。連携にはJAXAがオペレータとなって欲しい!JAXAは国の予算を執行するので色々な制約があり問題があると見るが、このコンフリクトを解消すべきである。この第4の存在の働きをsocial marketing と称し、その必要性と重要性を強調。

パネラー2;成毛 真氏から以下の主張があった。(潟Cンスパイア 代表取締役社長、元マイクロソフト代表取締役社長):ビジネス化には時間の間隔が必要!ベンチャーは7〜8年、10年近くかかる。のんびりやると20年だ!10年ではだめだ、3〜5年でビジネス化するようにJAXAは付き合って欲しい!日本の古くからの技術は新しいビジネスモデルとなり得る、外人も驚く匠の技術が多くある!
パネラー3;北野 宏明氏(潟\ニーコンピュータサイエンス研究所 取締役副所長)は前刷に無いチャートや動画を用いて、次のように語った。:これからは恒久的に運用可能、コストを下げる、リスク管理、日本独自のサービスを考慮すべきだ。日本の強みとしてロボット、ナノテク、バイオ、コンテンツ等があり,宇宙空間でリアルロボットでのゲームを1万個ぐらいの小型衛星で実況中継をやれば世界中が飛びつく!もっと日本は小型衛星を打ち上げて,こういうことが500万円位で出来るということを示して欲しい。日本独自の「宇宙で遊べる」となれば産業になる。今更、後追いではだめで、これらをwebcamでやろうとしている。これに対しコメントを求められた若田宇宙飛行士は、「大変、興味ある提言だが、やはり私の体験からはロボットと有人の活動は共存するものと見る。これまでの宇宙飛行士はまだ450人だ!これからは民間宇宙旅行者も出てくる。従来の宇宙村だけではだめだ、夢やビジネスには遊び心が大切だ‥」と答えた。

パネラー4;村山 裕三 氏(同志社大学大学院ビジネス研究科 教授)から、約1年半前JAXAから「宇宙事業化に向けた官・民・JAXAの新たな役割」のブレーンチーム(他分野の専門家9名)のリーダーを務めたとの前置きの後、3月迄にその報告を作成中であり、その中間報告として以下の発言があった。村山氏は:私は2年前は宇宙とは全く無縁で、第一回の会議に出たが全く噛み合わず、やばいと思った。しかし回を重ねて何とか形になったので本日のパネル討論の提言としてお話できた。現状の認識(光は差し始めたが、依然としてきわめて厳しい)、基本問題(官・民・JAXAの制度疲労:宇宙村と宇宙へ関心ある社会との間の壁の打破)を強調して以下の提言があった。
解決策(1):「官民パートナーシップ」手法の導入,注目トレンド「民主導の宇宙利用の始まり」(官主導の宇宙開発は非効率・コスト高,民の仕事は民だけでできるか? JAXAの支援の必要性、宇宙村による技術独占を砕き民間へ。
解決策(2):民の宇宙事業へのJAXAの支援(既存プログラムの強化,新現プログラムの導入,広報活動の強化,総括としてJAXAの新たな役割(官民パートナーシップの架け橋、宇宙からのソリューション・プロバイダー、宇宙事業のインキュベータ+JAXAの企業風土の改革),人はいるが役人! 
宇宙事業化の新しいイメージ:「政府・JAXA・宇宙産業」と「新しい技術・宇宙ユーザー」との架け橋の役目はJAXAだ!もっと遊び心を秘めて!と結んだ。

終わりに、樋口モデレータからキーワード約10語が披露されただけで終了。聴衆者はアンケート用紙に記入して帰りに提出した。

有料憩親会(18:15〜20:00、1,000円.約250名,同階パーティ会場)が立川理事長も出席され、有意義なひと時となった。

9.所見
これまでなかった宇宙村と非宇宙村(?)の情報交流となり,JAXAの意気込みが見られた。今後3月に提出されるブレーンチーム最終報告書をJAXAトップ以下全役職員がこの提言を謙虚に吸収消化しつつ納税者の期待に応え得る体質改善と各打ち上げミッションを達成されんことを祈念したい。
 特殊法人として1969年設立のNASDAの長年の役人体質のまま2003年にはNAL/ISASとともに3機関統合されたJAXAが、本シンポジウムでの提言とアンケート結果をどこまで採り入れて産学官連携ビシネスに取り組むのか・・・・・.関連する法律等の改正が必須とみるが,前途多難であろう。しかし時代の流れだ,JAXAの努カに大いに期待したい。

尚、懇親会でJAXA三輪田モデレータに「民間商業宇宙機はどうなるのか?JAXA長期ビジョンでははっきりしないが」と質問したところ、「オープンラボ」ではスケールが大きいので対象から外している、との答えがあったことをお伝えしておく。
 また、冒頭に述べたS-310小型ロケットとH-UA-8号機/「だいち」(ALOS)の打ち上げは、それぞれ1月22日と24日に無事打ち上げられ成功したことは同慶に堪えない。
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