大規模災害発生時における航空会社の緊急人道支援活動

はじめに

 航空ネットワークは地球規模での人と物の交流において、最速の交通手段として従来からその役割を果してきた。世界の片隅で起こったことも、インターネットなどITの発達とともに瞬時に伝わる時代となり、人々は一体感を持って様々な国や地域で起こることに敏感となっている。そのなかでも大規模自然災害については人々の関心が特に高く、近年その支援活動は注目されている。

地球規模での課題と航空会社の社会的使命

 航空会社は、企業の社会的責任(CSR=Corporate Social Responsibility)を果すための取組みとして、本業である航空輸送を活かした社会的な活動を行なっている。

 創業以来50年にわたり国際航空運送を社業とするJALでは、昨年より国連の提唱するGLOBAL COMPACTの10原則に賛同し、自らの企業活動についてCSR意識をもった取組みを行なうとともに、地球規模の課題の解決に対しても積極的に関わろうとしている。

 「航空輸送による世界の平和と繁栄への寄与」を社是としていることから本業による社会活動への協力も長年にわたり、継続的に行なってきた。

 アジアの学生を招待するJALスカラシップ、日米の留学生交換プログラム、全国の児童養護施設の児童を東京に招待する社員ボランティアプログラム「ふれ愛の翼」等、航空ネットワークを活用した社会活動を現在も展開している。

 近年の国内外での大規模自然災害にあたっては迅速にかつ効果的に救援・救助を実施し、すみやかな復興にあたることが地球的な課題として注目されており、民間部門の役割も重視されてきている。

 JALでは大規模自然災害時支援については広報部を窓口とし、全社各部門が連携し様々な取組みを実施してきた。新潟県中越地震、スマトラ沖地震・津波、パキスタン大地震の例を紹介したい。

公共輸送の確保

 災害にあっては、公共輸送機関として必要な運航を可能な限り確保することがまず重要である。 2004年10月23日に発生した新潟県中越地震により鉄道網が寸断されたため、その代替手段として翌日からは臨時便の運航を開始した。

 新幹線の代替として1024日~14日まで一日往復4便体制にて73日間で合計283便を運航し、111,274名のお客様にご利用いただいた。

本業を活かした輸送支援

【新潟中越地震】
 新潟中越地震では、国、地方公共団体等、公的機関宛寄贈品については無償とすることを決定した。 大阪-新潟間において、京都府・兵庫県・日赤の要請による輸血用血液、東京-新潟間において青色申告会の集めた暖房器具の貨物輸送に協力している。
 またJALグループとして24日の東京-新潟間臨時便初便において毛布400枚、お弁当・サンドウィッチ800食、おにぎり300個等を空輸し、新潟県対策本部に寄贈している。 翌日には
JALUXより寄贈された同社開発商品「デスカイ」シリーズの飲料水4920本、カップ麺3120食、レトルト食を空輸し、新潟県対策本部に寄贈している。

【スマトラ沖地震・津波】
 200512月に発生したスマトラ沖地震・津波は当社の就航する国を含む各地に甚大な被害をもたらした。 JALグループでは引き受け条件は以下の通りとし、JAL自社運航便において旅客と貨物での輸送協力を表明した。

① 貨物輸送協力 (救援物資を無償輸送)
a. 依頼主(荷主)および荷受人が営利を目的としない公的機関であること
b. 依頼主(荷主)および荷受人の連絡先が明確になっていること
c. 出発地及び到着地での通関諸手続き、地上配送手段が依頼主により手配されていること
d. 輸送品目は、救援物資で危険物・動物等、制限品を含まないこと
e. 原則として予約を受け付けるが状況によりお引き受けできない場合があること。

② 支援者輸送について(救援・復興支援に赴かれる方を無償輸送協力。超過手荷物についても一定限度まで無償輸送。) 過去に当社が支援した実績のある民間援助団体であること

 期間は1月7日~3月末までとしたが、二度目の地震が発生したため4月末まで延長した。
期間中民間援助団体の方20名をバンコック、ジャカルタに輸送し、外務省・国土交通省・農林省の要請により42トンの貨物をバンコックに輸送した。(旅客・貨物合計2,075万円相当)

【パキスタン地震】
 パキスタン地震では自社直行便はないものの可能な限りの支援を行なう旨表明し、スマトラ沖地震・津波と同様の条件での輸送支援を実施中である。 1018日現在 民間援助団体の方2名をバンコックまで輸送協力している。

マイルによる支援

 スマトラ沖地震・津波では当社便が就航している国に甚大な被害があったことから、124日~2月末まで1マイル=1円として 1万マイル単位でのマイルでの寄付をJMB会員によびかけホームページを通じてマイルをお寄せていただいた。 マイル相当分2,163万円をJALより現金にて日本ユニセフ協会に寄付した。

企業寄付・物資提供

 JALは経団連等の経済団体の寄付要請に応えるとともに、新潟中越地震については販社であるJALセールス東日本支社による地域協力としての寄付を行なっている。
 新潟県中越地震の際には日本経団連1%クラブの呼びかけに応え、健康管理室よりSARS対策在庫品であった速乾性手指消毒薬(エタノール)、一般マスク医療用使い捨て手袋を寄贈した。

社員ボランティア・社員募金

 新潟中越地震の際には当社のバスケットチームJALRABBITSが新潟県バスケットボール協会にお見舞い品を贈呈している。また日本経団連1%(ワンパーセント)クラブ主催「企業人による被災地支援のボランティアプログラム」に会社より社員ボランティアの参加を呼びかけ、客室乗務員1名が参加した。社員募金もカトリーナ津波被害を含む上記災害において実施しており、海外での災害については海外支店での募金活動等も実施されている。

航空会社による支援の特徴

 航空会社の支援の特徴は本業を活かした輸送協力である。ネットワークを活かした協力は外部の方からも期待されており多数の問合せを頂いている。
 ただし公益性、実現性の点から条件をつけて協力している。
 旅客輸送については個人ボランティアに対しても支援してほしいという要請をいただいているが、過去に当社との支援実績がある民間支援団体を現在支援対象とすることにより迅速な対応が可能となっている。
 貨物輸送については、空港間の輸送提供に限られるので、実際は到着後の通関・集積・分類・保管等について送り主による事前調整が必要と考えられる。
困難をともなうことが多いことから対応可能な公的機関の取扱いに限らせていただいている。
 マイル等お客様への募金呼びかけについては、就航国での災害の場合等当社ご利用のお客様の理解が得られやすい場合に限定している。寄付先は通常の募金活動としてロンドン、パリ、ニューヨーク線で実施している外国コイン募金の寄付先である日本ユニセフ協会としている。
 これらの支援にあたって、トップの意思もあり、事態発生後直ちに貨物・旅客の関係部門が連携し、意思決定を迅速におこなえるようになっている。

航空会社による支援の課題

 本業を活かした支援を行なうにあたっての現在の課題は以下の通りである。

① 民間の支援については日本赤十字社・ジャパン・プラットフォーム等との緊急人道災害を目的とした団体への協力を軸としている。しかしながら東京に本部のある団体が中心であり今後地方の人道支援団体のネットワークとも同様な協力が実現できるように各団体にアプローチしていくこととしたい。

② 個別の団体・個人の緊急支援に突発的に支援を行なうことは難しい。そのため支援ネットワーク組織等に取りまとめをお願いしている。当社のノウハウを活かした輸送支援のあり方についてこれらの団体と事前に協議を行なうことにより企業特性を活かした支援について更に一歩踏み込んだ形が実現できるであろう。航空一社に留まらず異業種間の連携により民間セクターによる支援がスムーズに行なえる可能性もある。このために引き続き、関係各方面との意見交換を進めていきたい。

③ オンライン地点に近い場所(国内を含む)での大災害の発生においては、本業の輸送の確保を最優先とするが、同時に輸送協力についての外部の期待も大きくなる。この場合はさらに大規模で効果的な支援体制が組めるよう、事前に協力方法等検証しておく必要がある。

おわりに

 航空会社は大規模な自然災害に対する人道支援を通じて、本業が社会的使命を持っていることを再確認し、またノウハウによる大きな寄与が可能であることを実感している。

 外部団体との連携にあたっては、日頃からの関係構築も重要であり、会社が社会にどれだけ開かれているかも試される。

 実際の協力にあたっては、各社内部門、現場での積極的な対応、社員一人一人の意思が効果を何倍にもする。

 企業の社会的責任としての真価も問われる緊急人道支援への協力において、充分な知見を有する専門性を活かせるよう研鑚に努めるとともに、常に一歩踏み込んだ支援ができないかという観点から前向きな取組みが求められる。

 今後も世界をつなぐネットワークと地球市民としての自覚を活かして緊急人道支援活動支援に取り組んでいきたいと考えている。

執筆

井出 勉

日本航空広報部 ・元ジャパンプラットフォーム事務局長

**編集人より**

井出さんはジャパンプラットフォーム初代事務局長時代の人道支援NGO活動を元にした小説「あした、世界のどこかで」を出版されています。(小学館刊)

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