フリーフライト世界選手権で日本人初の世界チャンピオン
– 模型飛行機の原点 フリーフライト –

 航空スポーツの世界統括団体であるFAI(国際航空連盟)は航空スポーツの世界選手権を開催している。航空スポーツの一つに模型飛行機がある。模型飛行機といってもさまざまな種類があるが、FAIはフリーフライト(F1)、コントロールライン(F2)、ラジコン(F3)等々の世界選手権を2年毎に開催しており各国の代表が参加している。この他近年、スペースモデル(Sクラス)も加わっている。

 2005年5月下旬、アルゼンチンで開催されたフリーフライト模型飛行機世界選手権において、グライダー機(F1A)、ゴム動力機(F1B)、エンジン機(F1C)の3種目のうち、エンジン機(F1C)で初の日本人チャンピオン(注:筆者の金川茂氏)が誕生した。1951年にこの種目の世界選手権がスタートして以来、日本はもとより、航空運動学校が存在し、この方面に熱心な中国を含めて、アジアで初のチャンピオンである。

 近年、ラジコン選手権において、ラジコン飛行機クラス(F3A)やヘリコプタークラス(F3C)での日本人チャンピオンの誕生や団体優勝は珍しくない。日本製のラジコン製品は世界のトップブランドとなっていて性能・品質は折り紙つきである。日本はこの分野で世界をリードしており、世界選手権に参加する選手のほとんどがメーカー関係者で、いわばその道のプロが参加するわけである。世界の頂点に立つことは確かに難しいことではあるが、勝ってあたりまえというところもある。

フリーフライトとは

 模型飛行機の種類にもいろいろあるが、簡単にその歴史をさかのぼってみよう。まず、最初に出来たのは「フリーフライト」と呼ばれる飛行機であった。その名の通り自由に飛行をする飛行機で、当然コントロールは出来ない。昔は広い場所があちこちにあり、飛ばす場所に関しては何の問題もなかった。

 そのうち、機体が遠くに飛んで行って無くなってしまう、もう少し曲技ができる飛行機は出来ないものかと考えられたのが、「コントロールライン」と呼ばれる模型飛行機である。細い金属製の撚り線で模型をつなぎ、ハンマー投げの選手のように、エンジン付模型飛行機をぐるぐる廻しながら飛ばす方法が考え出された。

 それから技術の進歩もあり、ぐるぐる廻すだけでは面白くないという事で、無線操縦でコントロールする「ラジコン」飛行機が生まれた。最近ではヘリコプター、模型用超小型ジェットエンジン搭載の飛行機まで現れ、電動飛行機なども盛んになり、模型飛行機と言えば「ラジコン」と言われるまでになった。
 
 日本の模型飛行機は99.99%までが「ラジコン」であるが、子どもの頃に竹ヒゴで作られたライトプレーンを飛ばした経験を持つ世代の中には、今でもこの種の模型飛行機を楽しんでいる人達がいる。言ってみればマニアであるが、模型店は現在ではフリーフライトに関する製品やパーツといったものは全く取り扱っていないため、この分野の模型を楽しむためには、海外からの情報や部品を自分で取り寄せなければならない。

 世界の各国も同様にラジコン主流であるが、日本ほど完全に「フリーフライト」を切り捨ててはいない。根強いファンに支えられて残っているのである。このような面だけ見ても、日本で「フリーフライト」を楽しむためには多くのハンデを持っているといえる。 このような状況でも2年毎に開催されている世界選手権に、30年以上前から日本選手が参加しているのであるが、この事実はあまり知られていない。

 「フリーフライト」を楽しむには実に多くのハンデをもつ日本人選手が今回のアルゼンチン大会で優勝したのである。模型飛行機で一番長い歴史を持ちながら認知度の低い「フリーフライト」の面白さ、難しさ、そして競技ルールを簡単に説明してみよう。

空がだんだん明るくなってくる。スタートはまもなくである。仲間が 見守るなか機体を組み立てる。アルゼンチンの気温はマイナス5度。

よく飛ぶ飛行機とは

 「ラジコン」は説明するまでもないが、「フリーフライト」をうまく表現できる言葉を見つけるのは難しい。一言で言えば「滞空時間を競う模型飛行機」だ。大きく分けてグライダー機、ゴム動力機、そしてエンジン機の3種類がある。室内機で飛ばして滞空時間を競う「インドアプレーン」もフリーフライトの一種であるが、我々が飛ばしている、自然を相手にした、屋外で飛ばす模型飛行機は、「インドアプレーン」とは一線を画す。こう言うとますます判り難くなってしまうが、屋外で早朝から夕方まで、さまざまな気象条件のもとで決められた飛行時間(3分間)を飛ばして成績を競う。機体が上昇気流に乗って飛んでいってしまうことがあるが、競技では3分間飛べば良い。機体にはタイマーが取り付けられており、3分間飛んだら降下する仕組みになっている。

 しかしながらこの3分を飛ばすことがいかに難しいかをもう少し説明してみよう。競技をする上でさまざまなルールを設け、機体にいろいろな制限を設けて飛び難くしてある。翼面積や最低重量を決め、エンジン機の場合にはエンジンの排気量と機体を上空に上げるためにエンジンを回すが、その時間はわずか5秒間と決まっている。少しでもオーバーすると記録はゼロとなる。エンジンが止まるとグライダーのように滑空する。グライダー機の場合には曳航索の長さ、ゴム動力機の場合には動力源となるゴムの重量を制限する。

 この厳しいルールのもとで、3種類の競技ともに、「よく飛ぶ飛行機」の製作に工夫を凝らす。機体の設計、製作、調整をして競技に参加するが、人よりもできるだけ長時間飛ぶ、いわゆる「良く飛ぶ飛行機」を作るわけだが、それだけでは終わらない。飛ばす技術もそれ以上に重要である。自然条件は厳しいもので、目に見えない空気の下りエレベーター(下降気流)に乗ってしまっては、性能的には5分以上飛ぶ高性機でも、1分そこそこで降りてくることがある。

 競技では55分間に3名の選手が飛ばし、これを7回(ラウンド)行う。上昇気流あり下降気流ありで、自分の持ち時間内に下降気流しかなければ、どんな超一流選手の機体でも3分をクリアーできない。上昇気流や下降気流は目に見えないので、サーマルセンサーという温度、風速から上昇気流を見つける装置を使うことは認められている。しかしながら、ラジコンなら、それこそメーカーが力を入れても高性能な機器を製作するが、「フリーフライト」はあくまでもアマチュアの競技であるから自作するしかない。立派な装置が作れるはずもない。ここがラジコンとは大きく違うところだ。

 また、競技では飛ばす場所は指定され、隣との間隔は10メートル。20カ国が参加したとして、端から端までは200メートル。これだけ離れると上昇気流が発生する場所もあれば、反対にその傍は下降気流が存在する。気流が良さそうだと判断して飛ばしても、上手く気流に乗れば3分は簡単にクリアーできるが、反対に下降気流につかまれば3分間は飛ばない。コントロールできないから下降気流から抜け出すことはできない。風が強い時は、機体は数キロ先まで流され、毎回機体を回収してこなくてはならない。コントロールできないから機体がどこに降りるかもわからない。木に引っかかる場合もあり、池や川に落ちる事もある。それをいかに早く回収するかも勝負である。アウトドアスポーツに近い模型飛行機といわれる所以である。

 こうして7ラウンドを終了した時点で1秒も欠けることなく飛ばした選手が決勝飛行へと進むことができる。決勝飛行ではハードルを高くして、5分間飛ばす。通常、決勝飛行は夕方の気流の安定した時間帯に行われ、純粋に機体性能が問われる。それでも一流選手の機体は高性能であるからそれをクリアーし、7分、9分とハードルを高くするが、最後には性能プラス弱い上昇気流をつかまえた機体が一番長く飛んでいることになる。運も必要である。そうして勝敗が決まった時、その機体は、世界一「良く飛ぶ模型飛行機」であり、その選手は世界一「飛ばすのが上手い」人となるのである。

頂点と底辺の拡大

 国内の競技会で選抜された仲間が代表選手として世界選手権に出場するわけであるが、足元の競技人口の拡大を考えなければならないことは言うまでもない。ごく一握りのマニアだけが熾烈な戦いを繰り広げるだけで、底辺を広げる活動をしなければますます「フリーフライト」の競技人口は少なくなってしまう。昔は教育の一環として、国家ぐるみで模型飛行機を飛ばした時代もあったが、時代の流れや趣味の多様化とともに、今では飛行機を飛ばす子ども少なくなり、それを教えられる大人も少なくなった。

 航空スポーツにはグライダー、熱気球、ハンググライダー、ウルトラライトなどと共に模型飛行機も含まれるが、関係者は最近の空離れの傾向を心配している。グライダーの学生選手権などもかつてのような勢いはないと聞く。模型に目を向ければ、ロボット全盛で「空もの」は子ども達に人気が無い。飛ばす場所が無い、すぐ壊れる、思うように飛んでくれない、教えてくれる大人がいない、などの理由で興味を持てないのかもしれない。空離れを食い止めるには、未来を担う子ども達に空への興味を持ってもらうことが重要である。

 このため日本模型航空連盟は日本航空協会および模型関係団体と一緒に「こども模型飛行機教室」というプロジェクトを立ち上げ、全国的な活動を開始した。飛行の基本である「フリーフライト」のうち、簡単なハンドランチ(手投げ)グライダーやゴム動力飛行機を教材として、飛行機の面白さを知ってもらおうと考えている。この活動が軌道に乗り、少しでも模型飛行機に興味を持ってくれる子ども達が増えれば、将来的に航空スポーツ全体の復活につながるのではないかという夢を描いている。そのために次回選手権の世界チャンピオンを狙う事はもちろんであるが、この底辺拡大のため活動のメンバーの一人として協力は惜しまない考えである。

執筆

金川 茂

日本模型航空連盟フリーフライト委員会 委員長

– 編集人より –
世界の頂点を極めた金川さんにつづき、航空スポーツに励み、かつ楽しんでいらっしゃる皆様からのご投稿をお待ちしています。

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