自作・超軽量動力機の許可申請 ─フィッシャーFP-303 の場合─

1.はじめに

写真1 飛行中のフィッシャー FP-303

写真1 飛行中のフィッシャー FP-303

 今年2014年の1月に「航空会館」に於いて藤田恒治氏が全金属製ウルトラクルーザーの製作から飛行を定例講演会でお話しされました。講演後の質疑応答では、飛行許可の取得についてお話が広がっていったとのことでした。飛行機を作るだけでも充分楽しいものですが、やはり許可を得て飛行の実現まで出来れば、充実感が大きいと思います。
 機体キットを購入、製作して「飛行許可」を得るために、どの様な書類が必要になるか? 「超軽量動力機」の飛行を楽しむ場合「機体について」の許可、「操縦について」の許可、それから「飛行場について」の許可の3種類を国土交通省航空局から得る必要が有ります。
 ここでは、私の飛行機(写真1)製作の経験から「機体についての飛行許可取得」について紹介させて頂きます。「なんだ、こんなものか」と感じ、それなら一つ作ってみよう、と思う人が新たに現れて来れば嬉しく思います。(2011年ウェブ版『航空と文化』「木製の飛行機を造り飛んでいます!-フィッシャーFP-303自作マイクロライト航空機-」に“FP-303製作記”を紹介する機会をいただきました。)

2.超軽量動力機の要件

 超軽量動力機として認められる機体の要件は国土交通省航空局安全部航空機安全課が発行するサーキュラー No.1-007「超軽量動力機又はジャイロプレーンに関する飛行試験等の許可について」(注)に制定されていますので、その枠内の機体を選ぶ必要があります。おおよそ表1の様な規定となっています。
 表1の要件を外れる飛行機は、自作航空機として取り扱われ、サーキュラー No.1-006 を参照して許可を取得する事になり、超軽量動力機の場合よりももっと多くの資料が必要になります。

表 1 超軽量動力機の主な要件

機体の自重が 1 人乗りの場合 180 kg 以下、
2 人乗りの場合 225 kg 以下 
最大水平速度 185 km/h(100 kt)以下
パワ・オフ失速速度 65 km/h(35 kt)以下
燃料タンク容量 30 リットル以下
翼面積は 10 m 2 以上、
推進力はプロペラで得ること    

3.機体についての飛行許可

3. 1 機体についての飛行許可とは ?

 航空法第11条の1項に「航空機は、有効な耐空証明を受けているものでなければ、航空の用に供してはならない。但し、試験飛行等を行うため国土交通大臣の許可を受けた場合は、この限りでない。」とあります。そして耐空証明については、航空法第10条に記載されていて、その飛行機が「省令で定める安全性を確保するための基準」に適合している場合に発行される訳ですが、超軽量動力機の場合は「耐空証明」を得るかわりに航空法第11条1項ただし書による「試験飛行等の許可」を取得して飛ぶ事が出来ます。
 超軽量動力機の場合、この第11条1項ただし書による許可について、前述のサーキュラー No. 1-007 に記載されています。従って許可申請に必要な書類は、これに沿って準備します。
 超軽量動力機を製作して「新規」に許可申請する場合の必要書類が「サーキュラー No. 1-007 付録2A」に示されています(表2)。許可期間は“条件により”最長で1年間の為、飛行を続ける為には更新が必要です。

 表 2 超軽量動力機を製作して「新規」に許可申請す る場合の必要書類

機体についての許可を得る為に必要な書類 
①  試験飛行等許可申請書(様式 7A)
②  上記①に掲げる申請書の写し
③  試験飛行等許可申請必要付属資料
((様式 3A)に指示される資料)
④  返信先を記載した返信用封筒
⑤  地上試運転及び地上滑走の実績………を記載したもの
⑥  飛行場所及び空域等に関する書類
 以下省略 

(注)リスト中の(様式○○)はサーキュラー No. 1-007 に 掲載されています。

3. 2 許可申請

 私が製作した Fisher Flying Products 社のFP-303キットに付属の書類は以下の3点でした。
 ・材料のリスト(キット明細表/Inventory Check List)
 ・設計図20枚(主翼以外は原寸図)
 ・フライト・マニュアル
 それらは残念ながら「サーキュラー」に要求される書類の様式には出来ていませんでした。そのため、これらの書類の中で、特に表2①の付属資料となる仕様書に記載される三面図や③の必要付属資料となる主要構造図や系統図などについては、かなり自分で編集する事になり、思わぬ手間を要しました。他のメーカーの機体キットでは、もっと提出資料として使える書類が整ったものも有る様です。しかし長い時間に渡る飛行機製作の過程では、これらのペーパーワークも自分の飛行機をしっかり理解、確認して行く上では役に立ったと思います。
 以下3.2.1~3.2.5項にて、その一部を紹介します。

3.2.1 三面図(表2①の関連資料)

 三面図はキットに付属していた図面をほぼ利用することができました。ただし、強度に影響を与えない操縦席後方の胴体上部の形状は自分の好みで少し変更しましたので、図面もそれに合わせて直しました。

3.2.2 主要構造図(表2③の関連資料)

 頑張って立体図を1つ2つ描いてしまえば、それをコピー原図として手書きで「必要な項目」を書き添えて行く事が出来ます。目的の絵の向きから撮影した写真を参考にして、何度か描いているうちに何とかなるものです(図2写真3)。

3.2.3 系統図(表2③の関連資料)

 各種のシステムも、同様にコピー原紙を利用して順番に描き加えて行けばたいてい表現出来るので、飛行機を作る楽しみのついでにやってみましょう。図3~図5に、私が描いたエルロン、エレベーター、ラダーのコントロール システムの図を示します。

3.2.4 荷重試験(表2③の関連資料)

 表2③付属資料(様式3A)の項目に「検討書・解析書」があります。この項には「合理的な試験等により実証出来る場合は、検討書又は解析書は省略してもよい」と書かれていて、必ずしも荷重試験を必要としている訳では有りません。
 キットから作成した飛行機の荷重試験をやるのか、何の為の荷重試験か。全金属機などでは誰が作っても設計どおりの強度を得る事が容易な場合、メーカーデータで充分説明が付くものであると考えられます。一方このFP-303のような木製構造の飛行機では設計どおりの強度を発揮するかは接着の品質次第と考えられます。従って、接着の品質を一様に保てるように、作業は気候の良い時期に主翼や胴体の重要構造部位を接着するよう、製作スケジュールをアレンジしました。確認の方法は接着剤の使用の度にテストピースを作って品質テストをする方法もあるでしょう。私の場合はトータル的に、荷重試験を実施する事が結局、確実であると考えました。
 FP-303の設計強度(Design Load Factor)は+4.6G、-2.3Gです。一方、超軽量動力機の運用範囲は「曲技やスピンをしない、Max 60度の旋回まで」です。また突風の吹く様な強風天候下では飛行しない等の制限があるので、せいぜい2G(プラスα)を運用制限として飛行すると考えれば充分と思います。したがって設計者が保障する「まず壊れる事は無いと信じられる範囲」で、その荷重の運用に耐えるかどうかを確認すれば充分であると考えます。これは破壊強度試験ではなく、安全を自分の目で見る為のデモンストレーションの様な意味が有ると思います。それでもあいにく壊れてしまえば「長年の作品」を失いますが、その時は、その機体には危なくて乗れないのだから、仕方ないという事になります。
 翼の荷重試験は飛行機製作の工程の中、一つの山場でした。私の機体は最大重量204kgとして翼の重さ38kgを考慮すると、約700kgの錘を載せたので4.2Gまで飛行時の翼取り付け強度を確認したことになります。最大揚力係数となる迎角で左右の翼に計700kg近く錘を載せる為しっかりした台座が必要です。
 砂袋は空力中心に並べて行きますが、何故か? 最初の一つの砂袋(20kg/袋)を載せる時が一番怖い!テスト中は何かが壊れた時「異音」が聞き取れる様に、静かな環境で実施。30個を超える砂袋を翼の上に持ち上げ腰が痛くなりました。

 

3.2.5 使用材料リスト(表2③の関連資料)

 キットによっては、使用材料リストなど、資料から主要な部分をコピーすれば、そのまま提出出来るレベルのものも有りますが、私のFP-303では、設計図から拾い上げて「主要な構造についての材料リスト」作成しました。表3に、「主翼部分」を紹介します。

表3 主要な構造についての使用材料リスト 主翼部分

 主要な材料  
 1. 概要
 機体構造は木製で航空機用スプルース(Spruce)および航空機用プライウッド(Plywood)を使用し、これら木部の接着にはエポキシ接着剤:T-88 Structural Adhesive (MIL-A-81236) を使用。メタル部品は 6061-T6 の Aluminum Flat Stock、Tube、Angle、Channel 各種サイズ、および 2024-T4 の Aluminum Flat Stock を使用。メタル同士の結合、木部とメタルの結合にボルトで行い、一部に Rivet が使用されている。  
 2. 構造材  
  A. 主翼(低翼単葉、Wing Strut 式) 
  前桁(Front Spar)、主桁(Main Spar)、後桁(Rear Spar)と片翼14枚のリブ及び13枚のFront Rib (前縁のみのリブ)を持ち、前縁を Plywood でプランキングしている。主翼の捩れに対する補強の為 Geodetic Construction がある。
   (1) リブ(トラス構造)
    Rib Cap 1/8”×1/8” Spruce
    Diagonal Member 1/16”×3/8” Spruce
   (2) 前桁
    Spar 1/4”×3/4” Spruce
    Nose Rib 1/8”(t) Plywood
    プランキング  1/16”(t) Plywood
   (3) 主桁(I-Beam 構造/翼付根では Box 構造)
    Spar Cap 1”×3/4” Spruce
    Web 1/8”(t) Plywood
    Wing Fitting 3/16”(t)×1” 2024-T4 Aluminum
   (4)後桁(I-Beam 構造) 
    Spar Cap  1/2”×1/2” Spruce
    Web  1/8”(t) Plywood
    Wing Fitting 1/8”(t)×1” 6061-T6 Aluminum
   (5)主翼 Geodetic Construction 
    Diagonal Member 1/8”×3/4” Spruce
3.2.6 飛行規定、整備規定(表2③の関連資料)

 飛行規定、整備規定として「飛行機の操作方法」
「整備に関する項目」が記載されたものが申請の付属資料として必要となります。FP-303キットには、フライト・マニュアルが準備されていて、飛行と整備について一冊の本になっていました。私は「飛行規定」と「整備規定」に分けて日本語の規定を作成しましたが、一冊のままでも良い様です。
 飛行規定には、「航空機の操作方法などを記載したもの」が必要であり、以下の様な項目が含まれます。

1.概要仕様、2.性能、3.通常操作、4.非常時の操作、5.重量と重心

 整備規定には、以下の様な項目が含まれます。

1.飛行前点検、2.定期点検項目、3.点検表

 飛行規定の重量と重心の項には、安定飛行する為に必要な飛行機の重量バランス確認が記載されています。飛行中は、常に許容範囲に重心位置が収まらなければなりません。私が作成したFP-303の重心位置を求めるための図をご参考までに図6に示します。

4.おわりに 夢の実現

 その他(表2⑤)の「地上試運転及び地上滑走の実績………を記載したもの」などは初飛行に至るまでに普通に実施する事なので問題有りません。機体をロープで固定してのエンジン試運転を充分に行った後、歩くような速度のタキシングや尾輪を上げてのハイスピードタキシングを繰り返して行う事で、自分の作った機体が感覚的にも一体感が出て来るし、スロットルの反応、エレベーター、ラダー、ステアリングの反応が感覚的に判って来ます。またエンジンの振動、タキシングによる機体の振動を調べて、弱い部分などが無いかを確認、必要があれば修正します。この様にして実際に作った飛行機を、一つ一つ確認しながら完成させて行きます。
 さあ、充分な準備をして、夢を実現しましょう。

 実際の許可申請にあたっては「NPO法人日本マイクロライト航空連盟」事務局のお世話になり、必要な文書の作成などについてもアドバイスを受ける事が出来ました。超軽量動力機を楽しんで見たい方は「NPO法人日本マイクロライト航空連盟」にお問い合わせ下さい。

〒105-0004 東京都港区新橋 1-18-1
(TEL:03-3519-2645) http://www.flyers.jp

執筆

石原能行

守谷フライングオーナーズクラブ

*本記事は『航空と文化』(No.109) 2014年夏季号からの転載です。

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