成田空港の現状と第3ターミナル

1 成田空港の現状

 2015年4月8日、成田国際空港に3つめの旅客ターミナルビルが誕生しました。
 成田空港は、1978年(昭和53年)に新東京国際空港として4000mのA滑走路1本と第1旅客ターミナルビル1つで開港して以来、1992年の第2旅客ターミナル供用、2002年のB滑走路供用を経て、2本の滑走路と3つの旅客ターミナルビルで運用しております(図1)

  対外的な要因により影響を受けた年もありましたが、取扱実績は開港以来概ね順調に推移しており、2014年度は、旅客数が3,530万人、発着回数が22.8万回、貨物取扱量が208万トンでした。
 こうした実績を積み重ねてこられましたのは、バランスのとれた豊富な国際ネットワークが強みとなっているからで、現在、乗り入れ航空会社88社が、世界35ヵ国・3地域・海外100都市、国内17都市に就航し、特に、3大アライアンス(スカイチーム、スターアライアンス、ワンワールド)が、成田空港を東アジアの拠点空港と位置づけ、ネットワークを展開していることから、アジアと北米を繋ぐ結節点として重要な役割を果たしています(図2)
 また、2012年に成田空港を拠点にするLCC*1が国内線を就航して以来、国内線は著しく拡大し、2014年度には、国内線発着回数は50,593回と初めて5万回を突破し、国内線旅客数も6,002,556人と初めて600万人を突破し、開港以来最高となりました。
*1 Low Cost Carrier=格安航空会社

2 成田空港を取り巻く環境の変化とLCC

 世界の航空需要は、今後も更なる拡大が見込まれており、特にアジアは今後20年間で、年間6.4%の高い伸び率を示しており、世界の航空旅客輸送量の成長を引き続き牽引する見込みとのことです。こうしたアジア域内の成長する需要をいかに日本に取り込んでいくかが課題であり、日本へ来てくださるお客様を増やす、また北米への乗継需要を取り込んでいく必要があると考えます。国を挙げて観光立国を目指し、インバウンド誘致に取り組んでいる効果もあり、訪日外国人が増加しております。2013年に初めて1000万人を突破し、2014年は1300万人となり、インバウンドは引き続き好調に推移しています。今後のアジア地域においては、こうした国々を中心に、訪日ビザ発給要件緩和の動きもあり、航空旅客の拡大が期待されます。
 高い成長が見込まれる航空需要の中で、今後さらに拡大していくのが、世界の航空市場で急成長しているLCCだと言われています。北米や欧州では、いち早くLCCのマーケットが確立しており、その伸びは急速に加速しています。LCCの勢いは2000年代に東南アジアに広がり、マレーシアのエアアジアの急成長に代表されるように、2012年の時点で東南アジアや南アジア地域ではLCCのマーケットシェアが5割を超えています。一方、日本や中国・韓国といった北東アジア地域においては、2012年時点では、LCCマーケットシェアが1割にも満たない状況でした。
 日本では、2012年がLCC元年と呼ばれて、以来急速にシェアが伸びておりますが、本邦LCCの2社*2が成田空港を拠点として国内線に就航したことから、特に国内線ネットワーク・便数が大幅に拡大しました。
 成田空港の強みは、バランスのとれた国際線ネットワークと、北米とアジアの結節点であるところですが、国内線や近距離国際線、特に発展著しい中国内陸部地域とのネットワークが弱みであり、今後開拓していかなければならない分野と捉えています。また、就航要望の多いピーク時間帯における発着回数の時間値の拡大に取り組む一方で、オフピーク時間帯の有効活用も大きな課題となっています。そのような観点で考えた時、小型機で国内線を含む4,000km圏内の短距離路線の運航を得意とするLCCの存在は、成田空港の弱点の克服と更なる成長の原動力になると考えられ、LCCの定着と発展は非常に重要な要素となっています(図3)
 また、成田空港にとって、空港へのアクセスは、非常に重要な問題で、特に「成田空港は都心から遠い」という印象があると思いますが、空港アクセスの利便性は飛躍的に向上しています。2010年に「成田スカイアクセス」が開通して都内の日暮里から空港までが最速36分で結ばれ、それまで50分以上を要していたアクセス時間が大幅に短縮されました。さらに、2012年の本邦LCCの就航に伴い、東京駅と成田空港を900円~1000円で結ぶ通称LCCバスが運航を開始し、各社とも深夜・早朝の到着・出発便に対応した便の設定をしているとともに、鉄道においても深夜・早朝に対応した運行を開始するなど、ますます空港アクセスの充実が図られています。更に最近では、機械警備等による警備体制を整えたことによって、課題であった空港入場のノンストップゲート化が2015年3月30日に実現しました。
*2 ジェットスター・ジャパン、エアアジア・ジャパン(当時。現バニラエア)

3 第3旅客ターミナルビルの概要

(1)計画の経緯

 海外におけるLCCの著しい成長を受け、2010年5月の国土交通省成長戦略でも、「成田空港においてLCCの本格的な参入促進を図るため、専用ターミナルの整備等により、低コストオペレーションが可能となる環境を整える」と示され、また2011年夏には、LCC2社*2より、成田空港を拠点として就航し、将来にわたって旺盛な就航意欲を有していることが表明されました。
 成田空港では、2012年夏に両社が国内線の就航を開始するにあたって、既存の第2旅客ターミナルビルの南北に増築を行う暫定対応を行い、国際線については第2旅客ターミナルビルで受け入れることとしました。
 将来の需要予測やLCC各社の旺盛な就航計画を考慮すると既存ターミナルビルの処理能力が不足すること、既存ターミナルビルは、上級クラスからエコノミークラスまで多様なニーズにきめ細かく対応するため、高いサービスレベルや利便性を提供する施設となっていましたが、LCCのビジネスモデルには合致しない面も多いこと、LCCからは、国際線・国内線の一体的な運用が可能で建設コストとランニングコストを抑えた専用ターミナルを要望されていたことから、既存ターミナルとは、一線を画したLCC専用ターミナルビルを整備することとしました。
 新ターミナルビルをどこに建設するかが、最初の課題でした。空港の敷地は限られている中で、①鉄道駅から徒歩でのアクセスが可能、②まとまったターミナル用地とスポットの確保が可能、③ショートターンアラウンドの実現が可能(滑走路が近い)、④工事期間が短い、といった条件を考慮して候補地について検討し、現在の位置である第2旅客ターミナルビル北側の第5貨物ビルの北側半分及びその周辺エリアを新ターミナルビル、すなわち第3旅客ターミナルビルの建設用地として選定しました。

(2)ターミナル計画概要

 第3旅客ターミナルビルの配置レイアウトは、図4に示すとおりであり、出到着ロビーや保安検査場、CIQ施設*3等が配置される本館と国内線の搭乗ゲートが配置されるサテライト、両建物を繋ぐブリッジ及び国際線搭乗施設として活用する既存第2旅客ターミナルビルの76・77番ゲートの4つのパートからなり、延床面積約66,000㎡です。
 ターミナルコンセプトは、「気軽に」「機能的」「わくわく」ですが、空の旅がますます身近になるよう、コンパクトで機能的な施設配置、ローコストの中に垣間見る「こだわり」を楽しんでいただけたらとの思いが込められています。
*3 CIQ:Customs(税関)、Immigration(出入国管理)、Quarantine(検疫)

(3)フロアレイアウト・旅客動線・サイン計画

 フロアレイアウトについては図5に示す通りです。出入口は2階の1箇所であり、第2ターミナルからのアクセス通路及びバス乗降場からペデストリアンデッキを介して入場します。限られた敷地の中で必要な機能・規模を確保するため、複層階建てにならざるを得ず、階層移動が必要となりますが、館内は各施設を機能的に配置し、基本的に分岐のない「一筆書き」の動線計画を行っています。
 また、店舗については効率よく買い物を楽しんでいただけるようメイン動線に沿った形で配置しています。保安検査場の手前に集中的に物販店及びフードコート(写真1)を配置しました。このエリアについては、24時間お過ごしいただくことが可能で、24時間営業のコンビニやソファタイプの椅子を配置することで、深夜~早朝時間帯にも休憩していただける空間を提供しています。また、国際線制限エリアには充実した免税店エリアを整備しています(写真2)
 サイン計画については、壁や梁にターポリンという布地のサインを設置することを基本とし、メイン動線上には陸上トラックをイメージしたゴムチップマットの床面デザインを採用し、お客様の進むべき方向を視覚的に分かりやすく伝える計画を行っています。これまでにないターミナルビルとして話題になりましたが、陸上競技場のような床デザイン(写真3)のアイデアは、動く歩道を設置する予算もスペースもないため、第2ターミナルビルから第3ターミナルビルまで、徒歩で15分もかかるところを、搭乗口まで迷うこと無く、しかも飽きずに長い距離を歩いてもらうには、どうしたら良いかという課題から生まれました。
 また、柱や壁面や梁に表示したサインに加え、床面に表示する案内サイン上に目的地(第3ターミナル、鉄道駅)までの距離も適宜表示して、明確化を図りました。 

(4)ターミナルアクセス

 第3ターミナルのアクセスについては、基本的に第2ターミナルから行うことをコンセプトとして計画を進めてきました。この大きな理由としては、隣接する第5貨物ビルの運用が継続するため、新ターミナル前面の敷地に貨物のトラックヤードを確保する必要があり、十分な規模のカーブサイド(車寄せ)を確保できないことが挙げられます。鉄道で来港されたお客様は、第2ターミナル地下にあるJR・京成線の「空港第2ビル駅」から、新設するアクセス通路(写真4)を経由し徒歩、あるいは第2ターミナルからの専用シャトルバスでアクセスしていただきます。昨今便数を増やしている格安バスを含めた高速路線バス、及びタクシーで来港されたお客様には、ターミナル近傍にバス乗降場を新設しました。スペースの制約上、一般車については、第2ターミナル近傍の駐車場をご利用いただくこととなりました。
 第3ターミナルへのアクセス時間は、鉄道、自家用車をご利用のお客様は、第2ターミナルから、徒歩、又はシャトルバスで、10分ないし15分程度、高速バス、タクシーをご利用の方は、第3ターミナルビル前の専用乗降場から徒歩約1~5分となっています。

(5)スポット計画

 第3ターミナル周辺のスポットについては、①LCCの主力機材であるA320、B737クラス(ICAOコードC)が出来る限り多く駐機できるようスポット数を確保する。②国際線については将来的にA330、B787等の大型機が就航する可能性があることから、コードE対応スポットも確保する。③ターンアラウンドタイムの短縮やコスト削減のため、PBB(搭乗橋)は設置せず、徒歩による搭乗・降機を行うこと、を前提とした計画を行いました。
 具体的には、国際線エリアについては、コードE対応であった76、77、78番の3スポットをマルチスポット化し、コードC対応5スポット・コードE対応2スポットとしました。また、国内線エリアについては、サテライト前に4スポットを整備し、供用時点でのターミナルに隣接するスポット数は、計9スポットとなっています(図6)。この他、ピーク時間帯には、近傍に位置する既存の100番台スポットをはじめとした沖止めスポットの利用も生じることから、ターミナル内にバスゲートを整備しました。

(6)スポットの将来展開計画とブリッジ計画

 サテライト北側については、将来的にはコンタクトゲート5スポットとオープンスポット3スポットを整備することが可能となっています。このうち、コンタクトゲート2スポットとオープンスポット3スポットについては、2017年3月の完成を目指しています。さらに用地が取得できた暁には、更なる3スポットの増設並びに、サテライトを取り囲む形でスポット誘導経路の設定が可能となります。
 この際、ブリッジの下を航空機が通過できるような構造とすることで、サテライト北側の計8スポットに出入りする航空機の円滑な運用が可能となります。このようなブリッジは国内空港では初であり、海外でもロンドン(ガトウィック空港)、デンバー、クアラルンプールにしか例がなく、新ターミナルビルの一つのアピールポイントとなればと考えています(図7)
 なお、ブリッジの下端部分はエプロンより高さ15mの高さで設定しており、コードCクラスの航空機が通過可能となります。コードCクラスのうち、最も高さのあるB737-600及びA318の全高12.6mに対して十分なクリアランスを設定することとし、関係機関と協議の上決定しました。
 現在は、下を航空機が通過することはありませんが、国内線のお客様でサテライトをご利用の方は、今までには見られなかったアングルから、空港を眺めていただくことができています(写真5)

(7)コスト削減の取り組み

 プロジェクトの根幹のコンセプトとして、「コスト削減」があり、それは、LCCのビジネスモデルに合致した効率的な施設を提供しつつ、航空会社にお支払いいただく施設使用料を可能な限り低減することで、LCCの定着と発展に寄与することが成田空港の戦略上重要な位置を占めるためです。建設コストの削減では、建築構造から特殊設備まであらゆる面でコスト削減を図っています。出発ロビーといえば、柱が無い空間で高い天井が一般的な特徴ですが、第3ターミナルは、12.5mスパンで均等に柱を配置し、天井仕上をやめて、高さも5m足らずです(図8)。一方、免税店エリアについては、天井を張っています。空港でのお買い物を楽しみにしているお客様もたくさんおられますので、品揃えは大変重要です。人気のブランドの商品を展開するには、そのブランドイメージを損なわないような空間を提供する必要がありました。 

 更に、空港ならではの特殊な設備としては、搭乗橋も最初から付けずに、エプロン上を徒歩で通行していただき、ステップ車で搭乗・降機をする形としています。
 お客様からお預かりした手荷物の搬送設備も既存ターミナルビルでは、インラインスクリーニング方式*4で、高度な仕分け機能を装備していますが、第3ターミナルビルは簡素な搬送設備としており、仕分け機能を導入していません(図9)
 こうした取り組みによって、平米あたり既存ターミナルビルに比べて約60%の建設コストとなっています。
 また、ハード面のみならずソフト面でもコスト削減を目指しており、案内・警備等の人員ポストの合理化及び業種統合、各種設備のメンテナンスの省力化等の観点から、より効率的な運用方法を検討してきました。
 こうした運用コストの削減を意識した取り組みが受け入れられるか、課題が発生した場合、どのような対応・改善策を実施していくのかが、今後の課題となるところです。
*4 コンベア上で受託手荷物の爆発物検知を実施

(8)利便性向上の取り組み

 チェックインカウンターは、国内線・国際線を同一エリアで取り扱うことによってお客様にもわかりやすく、航空会社も国内・国際間でスタッフの配置の切替が容易にできる形としました。仕様もシンプルなデザインでコストの削減を徹底しています。
 チェックインシステムは、エアリンク社がCUTE*5を提供していますので、どのエララインでも、どのカウンターでも使用できる形となっています。
 また、搭乗橋もコスト削減と時間短縮のため設けないこととしていましたが、雨の日のサービスレベルの低下や、傘の貸出等の負担増、エプロン上の保安対策及び誘導員の追加配置による運用コスト増等が課題となり、これらの課題を解消するため、「エプロンルーフ」の設置を行いました(写真6)。これによって、雨の日の対応や安全確保のための人件費が削減でき、定時運行率の向上も図っています。
*5 CUTE:Common Use Terminal Equipment

4 さいごに

 今後の成田空港、そして日本の航空業界にとって重要な役割を果たすLCCの定着・成長に貢献するために、LCCのビジネスモデルに合致する効率的かつ低廉なターミナル整備を鋭意進めてきました。構想開始から約3年、工事着手から約21ヵ月、2015年4月8日に、無事供用の日を迎えられました。ご協力いただいた関係者の皆様に感謝いたします。
 供用して約2ヵ月、さまざまな声が届いています。海外のLCCの空港は、セカンダリー空港でアクセスが悪かったり、ターミナルもお粗末だったりするし、かなり歩かされるのも普通ということで、それよりかなりマシと勇気づけられる声もありますが、実際には、サービス低下はなかなか受け入れていただけないのが正直なところで、お客様の要望にお応えする策はないかと日々検討をしています。
 お金をかければ、簡単な事もありますが、それによって空港コストが増大しては本末転倒ですので、工夫して、不便解消を実現したいと考えています。
 このような環境のもと、今後も「お客様に選ばれる」ターミナル、空港を目指し、引き続き努力していきたいと考えております。 

執筆

川瀬 仁夫

成田国際空港株式会社 旅客ターミナル部 
LCC専用ターミナルビル供用準備室長

*本記事は『航空と文化』(No.111) 2015年夏季号からの転載です。

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